身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
2-7 騎士団長スティーブ
「よし、話は決まったな。それじゃ俺があなた達を寄宿舎まで送りますよ」
スティーブが2人に声をかけた。
「ありがとうございます。」
「これからよろしくお願い致します」
アリアドネとヨゼフは丁寧にスティーブに頭を下げた。
「え? お前が連れて行くのか? 騎士達の訓練はいいのか?」
シュミットが尋ねた。
「ああ、いいんだ。あいつら朝の6時からつい先ほどまで大将に猛特訓受けさせられていたからな……少し休憩させてやらないと」
スティーブの言葉にシュミットは苦笑した。
「そうか……朝の6時から……」
(きっと昨日の事で相当腹を立てられたのだろう。まぁ事情が事情なだけに、陛下に文句を言う事は無いだろうが……)
昔からエルウィンはむしゃくしゃする事が起こると、騎士達に半ば強制的に猛特訓を受けさせていたのだ。
「それより、お前の方こそ早く大将の所へ戻った方がいいぞ。まだ執務室の机の上には書類が山積みになっているからな」
「ああ、分った。すぐにエルウィン様の元へ行く」
そんな2人の会話を黙って聞いていたアリアドネだったが、不意にシュミットに話しかけて来た。
「シュミット様」
「はい、何でしょうか?」
シュミットは笑みを浮かべてアリアドネを見た。
(アリアドネ様は不幸な生い立ちの女性だ。出来るだけ親切にして差し上げないと……)
「お忙しいのに、わざわざお時間を割いて頂き、ありがとうございました」
「いいえ、それでは私はもう行きますが……何かお困りの事があれば、私か……」
するとスティーブが手を上げた。
「俺に言って下さい」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
アリアドネに続き、ヨゼフも礼を述べた。
「それではお先に失礼致します」
シュミットは2人に頭を下げると、急ぎ足でエルウィンの元へ向かって行った。
「さて、俺達も行きましょう」
「「はい」」
スティーブに促されてアリアドネとヨゼフは返事をした――
****
アイゼンシュタット城の荒涼とした中庭をスティーブが先頭に立って歩きながら話しかけて来た。
「それにしても…お2人だけでこのような辺境の地に無事に辿り着くことが出来て、本当に運が良かったです」
「え?」
「どういう事なのでしょうか?」
ヨゼフが前を歩くスティーブに尋ねた。
「ええ。この領地は北部に位置し、『レビアス』王国の中では最も過酷な環境下に置かれているのですが、基本的にこの国は肥沃な大地に覆われ海にも恵まれている、非常に裕福な国なのです。それ故にこの国は常に他国からの侵略の危機に脅かされています。そして最前線に立って他国からの侵略を防ぐ為に戦うのが我々の使命なのです」
「はい、知っています。皆さん、本当に命を懸けてこの国を守って下り…感謝しかありません」
「え…?」
アリアドネの言葉にスティーブは不意を突かれたかのような気持ちになってしまった。今まで他の領地に住まう人々から一度たりとも、その様に言われた事が無かったからだ。彼らは皆、アイゼンシュタットの者達は血の気が多くて好戦的な人種なのだから『レビアス』王国の為に戦うのは当然だと思っていたからだ。
(けれど…この女性は他の人達とは違う考えを持っておられるようだ…)
スティーブは少しだけアリアドネに興味が湧いて来た。
そして再び話を続けた。
「そう言って頂けると、我々としても嬉しい限りです。ありがとうございます。それで先程の話の続きになりますが…その為、このアイゼンシュタット領地には宿場町等に敵国の間諜が紛れ込み、些細な争いが勃発する事が度々あるのです。ですがその様な争いに一切巻き込まれる事も無く、無事に城まで辿り着くことが出来たのですから…あなた方は運が良かったです」
「あ…」
アリアドネはスティーブの話を聞き、改めてゾっとした。
(そうだったのだわ…私達が旅の途中で恐れるのは狼だけでは無かったのだわ…)
ヨゼフもその事に始めて気付いたのだろう。隣を歩くアリアドネに言った。
「アリアドネ、本当に我らは運が良かったのだな」
「はい、そうですね…」
「いや~だから正直言って驚きましたよ。まさかお2人だけで無事にここまで辿り着けたのですから…あなた方の名はこの地に伝説として残るかもしれませんね」
「まぁ、で、伝説ですか…?」
「何だか照れ臭い話だな」
「ええ、伝説ですよ」
スティーブは自分の話ですっかり青ざめてしまったアリアドネとヨゼフの為に、軽い冗談を言ってその場を和ませた―。
スティーブが2人に声をかけた。
「ありがとうございます。」
「これからよろしくお願い致します」
アリアドネとヨゼフは丁寧にスティーブに頭を下げた。
「え? お前が連れて行くのか? 騎士達の訓練はいいのか?」
シュミットが尋ねた。
「ああ、いいんだ。あいつら朝の6時からつい先ほどまで大将に猛特訓受けさせられていたからな……少し休憩させてやらないと」
スティーブの言葉にシュミットは苦笑した。
「そうか……朝の6時から……」
(きっと昨日の事で相当腹を立てられたのだろう。まぁ事情が事情なだけに、陛下に文句を言う事は無いだろうが……)
昔からエルウィンはむしゃくしゃする事が起こると、騎士達に半ば強制的に猛特訓を受けさせていたのだ。
「それより、お前の方こそ早く大将の所へ戻った方がいいぞ。まだ執務室の机の上には書類が山積みになっているからな」
「ああ、分った。すぐにエルウィン様の元へ行く」
そんな2人の会話を黙って聞いていたアリアドネだったが、不意にシュミットに話しかけて来た。
「シュミット様」
「はい、何でしょうか?」
シュミットは笑みを浮かべてアリアドネを見た。
(アリアドネ様は不幸な生い立ちの女性だ。出来るだけ親切にして差し上げないと……)
「お忙しいのに、わざわざお時間を割いて頂き、ありがとうございました」
「いいえ、それでは私はもう行きますが……何かお困りの事があれば、私か……」
するとスティーブが手を上げた。
「俺に言って下さい」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
アリアドネに続き、ヨゼフも礼を述べた。
「それではお先に失礼致します」
シュミットは2人に頭を下げると、急ぎ足でエルウィンの元へ向かって行った。
「さて、俺達も行きましょう」
「「はい」」
スティーブに促されてアリアドネとヨゼフは返事をした――
****
アイゼンシュタット城の荒涼とした中庭をスティーブが先頭に立って歩きながら話しかけて来た。
「それにしても…お2人だけでこのような辺境の地に無事に辿り着くことが出来て、本当に運が良かったです」
「え?」
「どういう事なのでしょうか?」
ヨゼフが前を歩くスティーブに尋ねた。
「ええ。この領地は北部に位置し、『レビアス』王国の中では最も過酷な環境下に置かれているのですが、基本的にこの国は肥沃な大地に覆われ海にも恵まれている、非常に裕福な国なのです。それ故にこの国は常に他国からの侵略の危機に脅かされています。そして最前線に立って他国からの侵略を防ぐ為に戦うのが我々の使命なのです」
「はい、知っています。皆さん、本当に命を懸けてこの国を守って下り…感謝しかありません」
「え…?」
アリアドネの言葉にスティーブは不意を突かれたかのような気持ちになってしまった。今まで他の領地に住まう人々から一度たりとも、その様に言われた事が無かったからだ。彼らは皆、アイゼンシュタットの者達は血の気が多くて好戦的な人種なのだから『レビアス』王国の為に戦うのは当然だと思っていたからだ。
(けれど…この女性は他の人達とは違う考えを持っておられるようだ…)
スティーブは少しだけアリアドネに興味が湧いて来た。
そして再び話を続けた。
「そう言って頂けると、我々としても嬉しい限りです。ありがとうございます。それで先程の話の続きになりますが…その為、このアイゼンシュタット領地には宿場町等に敵国の間諜が紛れ込み、些細な争いが勃発する事が度々あるのです。ですがその様な争いに一切巻き込まれる事も無く、無事に城まで辿り着くことが出来たのですから…あなた方は運が良かったです」
「あ…」
アリアドネはスティーブの話を聞き、改めてゾっとした。
(そうだったのだわ…私達が旅の途中で恐れるのは狼だけでは無かったのだわ…)
ヨゼフもその事に始めて気付いたのだろう。隣を歩くアリアドネに言った。
「アリアドネ、本当に我らは運が良かったのだな」
「はい、そうですね…」
「いや~だから正直言って驚きましたよ。まさかお2人だけで無事にここまで辿り着けたのですから…あなた方の名はこの地に伝説として残るかもしれませんね」
「まぁ、で、伝説ですか…?」
「何だか照れ臭い話だな」
「ええ、伝説ですよ」
スティーブは自分の話ですっかり青ざめてしまったアリアドネとヨゼフの為に、軽い冗談を言ってその場を和ませた―。