身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

1−3 アリアドネの母

 ステニウス伯爵には2人の娘がいた。

 1人はミレーユ。
長く波打つプラチナブロンドにマリンアイの瞳の美しい娘ではあったが、傲慢で我儘な性格で使用人達から恐れられていた。

 そしてもう1人はアリアドネ。
ミルキーブロンドのストレートヘアーに紫の瞳を持つ18歳の娘で姉に劣らぬ美貌の持ち主であったが、彼女はこの屋敷で冷遇されていた……。


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 アリアドネの母、シュゼットはこの屋敷で働くメイドであった。
シュゼットはとても美しい女性であり、その為ハロルド・ステニウスに目をつけられてしまった。純潔を奪われた挙げ句、望まぬ妊娠をしてしまったのであった。

自分が妊娠してしまった事を知ったシュゼットはハロルドに報告した。
ハロルドはシュゼットの妊娠の事を知り、衝撃を受けたが世間体を考えてやむを得ず彼女を側室として迎えた。しかし、これを良しとしなかったのが正妻であるマルゴットであった。
彼女はとても嫉妬深い女性であり、徹底的にシュゼットをいじめ抜いた。身重のシュゼットはお腹の子を守る為に、マルゴットの執拗な嫌がらせに1人で耐え続けた。

 本来であればシュゼットに手をつけ、側室に迎え入れたハロルドが彼女を守るべきだったのに、彼はマルゴットがシュゼットを虐めているのを知りながら、見てみぬふりをして背を向けたのであった。
こうしてシュゼットは陰湿な虐めと孤独の中……アリアドネを出産したのだった。

 孤独な生活から一転、可愛らしい我が子を授かったシュゼットはこれでハロルドが自分達を顧みてくれるようになるだろうと期待したのだが、現実は違った。ハロルドは一度もシュゼットの産んだ子供を抱くどころか、名前すらつけてはくれなかった。
それどころか2人を離れの一番奥の部屋に追いやり、2人の生活費として月々僅かばかりのお金を与え、決して自分達の前に姿を現さないようにシュゼットに命じたのだった。 

 離れに追いやられたシュゼットは自分の娘に「アリアドネ」と言う名前をつけた。こうしてシュゼットとアリアドネの2人だけの生活が離れで始まった――


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 アリアドネとシュゼットの2人だけの生活はとても穏やかなものだった。
それはシュゼットがこの屋敷でメイドとして働き始めてから一番幸せな時間であった。しかし、元来シュゼットは身体があまり丈夫では無かった。
過酷な環境下と、無理な出産で寿命を縮めてしまい……アリアドネが10歳の時に病に倒れ、とうとう帰らぬ人となってしまった。


 こうしてアリアドネは僅か10歳で大好きだった母を亡くしてしまった。
そこでハロルドはやむを得ず、アリアドネを離れから自分達の住まう城に移したのだが……ここからアリアドネの真の苦労が始まった。

 シュゼットの娘であるアリアドネを酷く憎んだマルゴットとミレーユは彼女を家族としてではなく、使用人として扱ったのだ。
 アリアドネに与えられた部屋は他の使用人達と同様、粗末な部屋であった。
 可哀想なアリアドネは普段着すら買ってもらえなえかった為、毎日メイド服を着て過ごし、朝から番までメイドとして働かされた。

そしてこの暮らしはアリアドネが辺境伯に嫁がされる事が決定したその日まで、8年もの間続けられたのであった――
  

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