身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
4-2 不吉な男
近くの宿場町の領民達が城の大門の前に集まってきたので、門番の兵士が開城した。
ギイィィ〜……
大きくきしんだ音を響かせて、門が開かれると兵士は領民達に声をかけた。
「さぁ、皆。部屋は用意されている。慌てず押し合わず入城するように!」
兵士の言葉に領民達は頷くと、ゾロゾロと城の敷地内へと入っていく。入城して来る領民達は老若男女様々だった。
「名簿に名前を記入するので、こちらへ来るように!」
城の入口では騎士が領民達を並ばせて、一人一人の名前を聞き取り、名簿に書き込んでいる。その様子をアリアドネは作業場から見つめていた。今は作業場で皆でシーツにアイロンがけを行っている最中だった。
「大勢集まってきましたね」
アリアドネは隣でアイロンがけを行っているイゾルネに話しかけた。
「そうだね。男女合わせて50人くらいはいるんじゃないかな?」
「部屋割りはどうなるのですか?」
「宿泊施設は男女に別れているからね……でも子供に関しては、例えば母親と一緒がいいなら男の子でも女性用の宿泊所で暮らすことになってるよ。今アイロンを掛けているシーツはあの領民達の為さ。尤も彼等もこの城で衣食住を保証する代わりに労働はしてもらう事になっているんだよ。越冬するには全員で力を合わせた方がずっと暮らしやすいからね。こちらも助かるし、領民達だってありがたいと思っているよ」
「そうなんですね。エルウィン様はその事も考えて領民の人達にお城で暮らすように勧めたのでしょうね…」
「まぁ、事務仕事は嫌いな方だけどね。私達の事は考えてくれているよ。性格があんなだから世間の評判は悪いけど、私達は皆エルウィン様を慕っているよ」
「そうなのですか……」
アリアドネは自分に剣を向けようとしたエルウィンの姿を思い出していた。でもあの時の行動は、この城から早く離れて何処か暮らしやすい場所に行けとう意味だったのだろうか……? そう思う様になっていた。
やがて領民達の間で男女に別れた列が出来上がり、それぞれの寮長によって案内されていく様子を見届けると、再びアリアドネはアイロンがけに集中した――
****
「全く……忌々しい連中だ……」
領民達がぞろぞろと城内に入り、簡易宿泊所に消えていく姿を城の窓から忌々し気にランベールは見下ろしていた。
「本当に仰る通りです」
ランベールに賛同するのは彼の忠実な腹心だった。
「オズワルド、お前もそう思うのか?」
ランベールはオズワルドと呼んだ男に視線を移す。
「はい、そうです。自分たちの力で越冬出来ないような領民達など我々には不要です。そんな力の弱い領民達では蛮族どもが襲ってきた時、太刀打ち等出来ないでしょう。ここの領地ではそのような領民達は足手まといの何物でもありません」
「そうだな……全く忌々しい若造め……私が領主だったならあのような家畜臭い領民達など捨てておくと言うのに」
ランベールは悔し気に窓の外を見下ろす。
「あいつも兄上と同様だ。妾腹の娘の腹から生まれた私を見下しおって……。剣を振るうしか能の無い男のくせに」
「ええ。ですが幸い、エルウィン様はまだ未婚でお世継ぎもおりません。ですがランベール様にはまだ小さいとは言え、2人もお世継ぎがいるではありませんか。チャンスはまだいくらでもありますよ」
すると、初めてランベールの顔に笑みが浮かぶ。
「ああ……そうだな。それにあいつは戦う事にしか興味が無い男だからな。本当に愚かな男だ……」
そんな2人の会話を物陰で盗み聞きしている人物がいる事に、ランベールもオズワルドも気付いてはいなかった――
****
「エルウィン様。領民達が集まって参りました。全員謁見の間に集まっています」
スティーブが執務室にいるエルウィンの元へ知らせにやってきた。
「そうか? ならすぐに行こう!」
丁度頭の痛くなるような難しい書類に目を通していたエルウィンは嬉しそうに立ち上がった。
「エルウィン様……挨拶は手短にお願いしますよ。仕事は山積みですから。私はここで残って仕事の続きを1人で行っておりますので、挨拶へはスティーブとお2人で行かれて下さい」
「……チッ! いちいち、嫌味な奴め」
エルウィンは舌打ちしながらシュミットを睨み、すぐにスティーブの方を見た。
「では、行くぞ」
「はい、大将」
そしてエルウィンを先頭に、2人はさっそうと執務室を出て行った。
「……」
そんな様子の2人を呆れた様子で見送るシュミット。やがてバタンと扉が音を立てて閉じられるとシュミットは溜息をついた。
「全く……エルウィン様は仕事嫌いで困る方だ……」
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。
「シュミット様、いらっしゃいますか」
「その声は……? 中へ入れ」
「失礼致します」
扉が開かれ、1人の若者が中へ現れた。そして神妙な顔つきでシュミットに告げた。
「実は、ランベール様の事で報告がございます」
その言葉にシュミットの眉が険しくなった――
ギイィィ〜……
大きくきしんだ音を響かせて、門が開かれると兵士は領民達に声をかけた。
「さぁ、皆。部屋は用意されている。慌てず押し合わず入城するように!」
兵士の言葉に領民達は頷くと、ゾロゾロと城の敷地内へと入っていく。入城して来る領民達は老若男女様々だった。
「名簿に名前を記入するので、こちらへ来るように!」
城の入口では騎士が領民達を並ばせて、一人一人の名前を聞き取り、名簿に書き込んでいる。その様子をアリアドネは作業場から見つめていた。今は作業場で皆でシーツにアイロンがけを行っている最中だった。
「大勢集まってきましたね」
アリアドネは隣でアイロンがけを行っているイゾルネに話しかけた。
「そうだね。男女合わせて50人くらいはいるんじゃないかな?」
「部屋割りはどうなるのですか?」
「宿泊施設は男女に別れているからね……でも子供に関しては、例えば母親と一緒がいいなら男の子でも女性用の宿泊所で暮らすことになってるよ。今アイロンを掛けているシーツはあの領民達の為さ。尤も彼等もこの城で衣食住を保証する代わりに労働はしてもらう事になっているんだよ。越冬するには全員で力を合わせた方がずっと暮らしやすいからね。こちらも助かるし、領民達だってありがたいと思っているよ」
「そうなんですね。エルウィン様はその事も考えて領民の人達にお城で暮らすように勧めたのでしょうね…」
「まぁ、事務仕事は嫌いな方だけどね。私達の事は考えてくれているよ。性格があんなだから世間の評判は悪いけど、私達は皆エルウィン様を慕っているよ」
「そうなのですか……」
アリアドネは自分に剣を向けようとしたエルウィンの姿を思い出していた。でもあの時の行動は、この城から早く離れて何処か暮らしやすい場所に行けとう意味だったのだろうか……? そう思う様になっていた。
やがて領民達の間で男女に別れた列が出来上がり、それぞれの寮長によって案内されていく様子を見届けると、再びアリアドネはアイロンがけに集中した――
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「全く……忌々しい連中だ……」
領民達がぞろぞろと城内に入り、簡易宿泊所に消えていく姿を城の窓から忌々し気にランベールは見下ろしていた。
「本当に仰る通りです」
ランベールに賛同するのは彼の忠実な腹心だった。
「オズワルド、お前もそう思うのか?」
ランベールはオズワルドと呼んだ男に視線を移す。
「はい、そうです。自分たちの力で越冬出来ないような領民達など我々には不要です。そんな力の弱い領民達では蛮族どもが襲ってきた時、太刀打ち等出来ないでしょう。ここの領地ではそのような領民達は足手まといの何物でもありません」
「そうだな……全く忌々しい若造め……私が領主だったならあのような家畜臭い領民達など捨てておくと言うのに」
ランベールは悔し気に窓の外を見下ろす。
「あいつも兄上と同様だ。妾腹の娘の腹から生まれた私を見下しおって……。剣を振るうしか能の無い男のくせに」
「ええ。ですが幸い、エルウィン様はまだ未婚でお世継ぎもおりません。ですがランベール様にはまだ小さいとは言え、2人もお世継ぎがいるではありませんか。チャンスはまだいくらでもありますよ」
すると、初めてランベールの顔に笑みが浮かぶ。
「ああ……そうだな。それにあいつは戦う事にしか興味が無い男だからな。本当に愚かな男だ……」
そんな2人の会話を物陰で盗み聞きしている人物がいる事に、ランベールもオズワルドも気付いてはいなかった――
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「エルウィン様。領民達が集まって参りました。全員謁見の間に集まっています」
スティーブが執務室にいるエルウィンの元へ知らせにやってきた。
「そうか? ならすぐに行こう!」
丁度頭の痛くなるような難しい書類に目を通していたエルウィンは嬉しそうに立ち上がった。
「エルウィン様……挨拶は手短にお願いしますよ。仕事は山積みですから。私はここで残って仕事の続きを1人で行っておりますので、挨拶へはスティーブとお2人で行かれて下さい」
「……チッ! いちいち、嫌味な奴め」
エルウィンは舌打ちしながらシュミットを睨み、すぐにスティーブの方を見た。
「では、行くぞ」
「はい、大将」
そしてエルウィンを先頭に、2人はさっそうと執務室を出て行った。
「……」
そんな様子の2人を呆れた様子で見送るシュミット。やがてバタンと扉が音を立てて閉じられるとシュミットは溜息をついた。
「全く……エルウィン様は仕事嫌いで困る方だ……」
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。
「シュミット様、いらっしゃいますか」
「その声は……? 中へ入れ」
「失礼致します」
扉が開かれ、1人の若者が中へ現れた。そして神妙な顔つきでシュミットに告げた。
「実は、ランベール様の事で報告がございます」
その言葉にシュミットの眉が険しくなった――