身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
4-16 シュミットの胸の痛み
「そうですか……そのような事があったのですか」
シュミットはアリアドネの話を聞き、ため息をついた。
「ですが、本当にご無事で良かったです」
「ええ、私は本当に運が良かったです。エルウィン様に感謝しないとなりませんね」
「そ、そうですね」
笑顔でエルウィンの事を語るアリアドネにシュミットは複雑な気持ちを抱えていた。
(何故、アリアドネ様は笑顔でエルウィン様の事を語れるのだろう? 元はと言えば、始めからエルウィン様がこの方を妻として受け入れて下さっていれば、下働きとして手荒れを作ってまで働く事も無く、この城のならず者達から貞操の危機に晒される事も無いのに)
「シュミット様? どうされましたか?」
隣を歩くアリアドネはシュミットが深刻そうな表情を浮かべているのを不思議に思い、声をかけた。
「いえ、何でもありません。ところでアリアドネ様」
「はい、何でしょうか?」
「冬場の下働きの仕事は辛くはありませんか? 見た処、手荒れもされているようですし」
「あ、こ、これは……お恥ずかしい限りです。このように見苦しい手をお見せしてしまって」
「何を仰るのです? 見苦しい手など決してそのような事はありません。働き者の立派な手だと思います。ですが仮にも本来アリアドネ様はエルウィン様の妻となるベく遠路はるばる嫁がれて来たのに本当に申し訳ございません。上の者達にだけは素性を明かし、労働から解放して貰う様に伝えましょうか?」
シュッミットの言葉に慌てた様にアリアドネは首を振った。
「いいえ! とんでもありません! シュミット様、お願いですからそのような事は決してなさらないで頂けませんか? どうか特別扱いしないで下さい。それに私働く事が好きなのです」
「ですが、今のアリアドネ様は普通の貴族令嬢と全く異なる生活をされています。本来の貴族女性であれば、お茶をたしなんだり、勉強を学んだり、読書をして過ごす……それが普通なのですよ?」
「確かにそうかもしれませんがお恥ずかしい事に私は貴族令嬢としての教育を一切受けて来なかったのです。読み書きは何とか出来ますが他の事はさっぱり分りません。楽器を演奏する事も、ダンスを踊ることも何一つ出来ません。子供の頃からずっとメイドとして働いて来たので、今の生活が一番私には合っているのです」
「アリアドネ様……」
そこまで2人が話した時、ようやく作業場へと続く地下通路に出る事が出来た。
「シュミット様、もうここまで案内して頂ければ大丈夫です。後は1人で戻れますので」
「え……? ですが……」
「シュミット様はとてもお忙しい方ではありませんか?私の為にこれ以上時間を割いて頂くのは申し訳ありません」
「わかりました。そこまでアリアドネ様が仰るのであれば、ここまでの案内に致しましょう」
本当はもう少しアリアドネと一緒にいたかったが、シュミットにはその気持ちを口に出す事が出来ない。
「本当にありがとうございました。エルウィン様に宜しくお伝えください」
「え。ええ……分りました。伝えておきましょう」
シュミットは笑みを浮かべながら返事をしたが、アリアドネの口からエルウィンの名を聞くと、何故か胸がズキリと痛むのだった――
シュミットはアリアドネの話を聞き、ため息をついた。
「ですが、本当にご無事で良かったです」
「ええ、私は本当に運が良かったです。エルウィン様に感謝しないとなりませんね」
「そ、そうですね」
笑顔でエルウィンの事を語るアリアドネにシュミットは複雑な気持ちを抱えていた。
(何故、アリアドネ様は笑顔でエルウィン様の事を語れるのだろう? 元はと言えば、始めからエルウィン様がこの方を妻として受け入れて下さっていれば、下働きとして手荒れを作ってまで働く事も無く、この城のならず者達から貞操の危機に晒される事も無いのに)
「シュミット様? どうされましたか?」
隣を歩くアリアドネはシュミットが深刻そうな表情を浮かべているのを不思議に思い、声をかけた。
「いえ、何でもありません。ところでアリアドネ様」
「はい、何でしょうか?」
「冬場の下働きの仕事は辛くはありませんか? 見た処、手荒れもされているようですし」
「あ、こ、これは……お恥ずかしい限りです。このように見苦しい手をお見せしてしまって」
「何を仰るのです? 見苦しい手など決してそのような事はありません。働き者の立派な手だと思います。ですが仮にも本来アリアドネ様はエルウィン様の妻となるベく遠路はるばる嫁がれて来たのに本当に申し訳ございません。上の者達にだけは素性を明かし、労働から解放して貰う様に伝えましょうか?」
シュッミットの言葉に慌てた様にアリアドネは首を振った。
「いいえ! とんでもありません! シュミット様、お願いですからそのような事は決してなさらないで頂けませんか? どうか特別扱いしないで下さい。それに私働く事が好きなのです」
「ですが、今のアリアドネ様は普通の貴族令嬢と全く異なる生活をされています。本来の貴族女性であれば、お茶をたしなんだり、勉強を学んだり、読書をして過ごす……それが普通なのですよ?」
「確かにそうかもしれませんがお恥ずかしい事に私は貴族令嬢としての教育を一切受けて来なかったのです。読み書きは何とか出来ますが他の事はさっぱり分りません。楽器を演奏する事も、ダンスを踊ることも何一つ出来ません。子供の頃からずっとメイドとして働いて来たので、今の生活が一番私には合っているのです」
「アリアドネ様……」
そこまで2人が話した時、ようやく作業場へと続く地下通路に出る事が出来た。
「シュミット様、もうここまで案内して頂ければ大丈夫です。後は1人で戻れますので」
「え……? ですが……」
「シュミット様はとてもお忙しい方ではありませんか?私の為にこれ以上時間を割いて頂くのは申し訳ありません」
「わかりました。そこまでアリアドネ様が仰るのであれば、ここまでの案内に致しましょう」
本当はもう少しアリアドネと一緒にいたかったが、シュミットにはその気持ちを口に出す事が出来ない。
「本当にありがとうございました。エルウィン様に宜しくお伝えください」
「え。ええ……分りました。伝えておきましょう」
シュミットは笑みを浮かべながら返事をしたが、アリアドネの口からエルウィンの名を聞くと、何故か胸がズキリと痛むのだった――