身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
5-4 秘密の話
ダリウスに連れられてきたのは仕事場の奥にある倉庫だった。この倉庫には穀物や野菜、干し肉、加工品……様々な物が棚にぎっしりと並べられている。
「どうしたの、ダリウス。こんな処に来たりして。何か用事でもあるの?」
アリアドネは首を傾げた。するとダリウスは辺りを伺いながら話し始めた。
「ちょっと2人きりの大事な話がしたかったからね。幸いここは滅多に人が来るような場所じゃないし……」
「ええ、確かにそうだけど……でも大事な話って何?」
アリアドネは緊張気味の顔で尋ねた。
「うん、その前に……手のあかぎれの方はどうだい?」
「え? あかぎれ? ええ、ダリウスのくれたクリームのお陰で……見て? こんなに綺麗になったわ」
アリアドネは笑顔でダリウスに手を見せた。
「……」
ダリウスは少しの間、アリアドネの手を見つめていたがやがてそっと触れて来た。
「ダ、ダリウス?」
突然手を触れられて、アリアドネの顔が赤くなる。
「うん……とても綺麗になったね……すべすべで、色白で柔らかい」
そして両手でアリアドネの手を包み込んできた。あまり異性との触れ合いに慣れていないアリアドネは顔が赤らむ。
「ダ、ダリウス……手を離してくれる?」
「あ、ごめん。勝手に触れたりして」
ダリウスはパッと両手を離し、申し訳なさげに謝るとすぐに真面目な顔つきになる。
「実は君に大事な話があるんだ。来年越冬期間が開けたら、俺は国に帰ろうかと思ってる」
「え? 貴方は『アイデン』の領民だったのではないの?」
「『アイデン』には用事があったから一時的に暮らしていただけなんだ。でもその用事もここの越冬期間が開ければ終わりになる。だから国に帰るつもりなんだ」
その話にアリアドネの顔に悲しみの表情が浮かぶ。
「そうなの……残念だわ。折角貴方とは良いお友達になれたかと思っていたのに」
「友達……か……」
ダリウスは寂し気な笑みを浮かべ、更に声のトーンを落とした。
「アリアドネ……君は本当は下働きの者じゃないんだろう?」
「え? な、何故それを……」
「ヨゼフさんに聞いたからだよ」
「え? ヨゼフさんに? あ……そう言えば、いまどうしているの? ヨゼフさんは元気なの?」
アリアドネは越冬期間に入ってからは一度もヨゼフの姿を見ていない。何でも腰痛が酷くて仕事が出来ないので、ここでの仕事が免除されていると人づてに聞かされていた。
「勿論元気だよ。ただ腰痛が少しこの寒さで悪化しているんだけどね。今彼は男性寮の管理の仕事を任されているんだよ」
「そうだったのね……元気そうなら良かったわ。……あ、ごめんなさい。話がそれてしまったわね。続きを聞かせてくれる?」
「うん。ヨゼフさんは気さくでいい人だからね……俺も彼と親しくなってそこで誰にも秘密だと言う事で、教えて貰ったんだよ。君は本当は伯爵令嬢で、辺境伯の妻になる為に嫁いで来たって話を。けれど彼は妻を望んでいなかった。それどころか、追い出す為に剣を抜こうとしたらしいじゃないか……」
「ダ、ダリウス…」
その声には、どこかエルウィンに対して憎しみを抱いているかのような言い方だった――
「どうしたの、ダリウス。こんな処に来たりして。何か用事でもあるの?」
アリアドネは首を傾げた。するとダリウスは辺りを伺いながら話し始めた。
「ちょっと2人きりの大事な話がしたかったからね。幸いここは滅多に人が来るような場所じゃないし……」
「ええ、確かにそうだけど……でも大事な話って何?」
アリアドネは緊張気味の顔で尋ねた。
「うん、その前に……手のあかぎれの方はどうだい?」
「え? あかぎれ? ええ、ダリウスのくれたクリームのお陰で……見て? こんなに綺麗になったわ」
アリアドネは笑顔でダリウスに手を見せた。
「……」
ダリウスは少しの間、アリアドネの手を見つめていたがやがてそっと触れて来た。
「ダ、ダリウス?」
突然手を触れられて、アリアドネの顔が赤くなる。
「うん……とても綺麗になったね……すべすべで、色白で柔らかい」
そして両手でアリアドネの手を包み込んできた。あまり異性との触れ合いに慣れていないアリアドネは顔が赤らむ。
「ダ、ダリウス……手を離してくれる?」
「あ、ごめん。勝手に触れたりして」
ダリウスはパッと両手を離し、申し訳なさげに謝るとすぐに真面目な顔つきになる。
「実は君に大事な話があるんだ。来年越冬期間が開けたら、俺は国に帰ろうかと思ってる」
「え? 貴方は『アイデン』の領民だったのではないの?」
「『アイデン』には用事があったから一時的に暮らしていただけなんだ。でもその用事もここの越冬期間が開ければ終わりになる。だから国に帰るつもりなんだ」
その話にアリアドネの顔に悲しみの表情が浮かぶ。
「そうなの……残念だわ。折角貴方とは良いお友達になれたかと思っていたのに」
「友達……か……」
ダリウスは寂し気な笑みを浮かべ、更に声のトーンを落とした。
「アリアドネ……君は本当は下働きの者じゃないんだろう?」
「え? な、何故それを……」
「ヨゼフさんに聞いたからだよ」
「え? ヨゼフさんに? あ……そう言えば、いまどうしているの? ヨゼフさんは元気なの?」
アリアドネは越冬期間に入ってからは一度もヨゼフの姿を見ていない。何でも腰痛が酷くて仕事が出来ないので、ここでの仕事が免除されていると人づてに聞かされていた。
「勿論元気だよ。ただ腰痛が少しこの寒さで悪化しているんだけどね。今彼は男性寮の管理の仕事を任されているんだよ」
「そうだったのね……元気そうなら良かったわ。……あ、ごめんなさい。話がそれてしまったわね。続きを聞かせてくれる?」
「うん。ヨゼフさんは気さくでいい人だからね……俺も彼と親しくなってそこで誰にも秘密だと言う事で、教えて貰ったんだよ。君は本当は伯爵令嬢で、辺境伯の妻になる為に嫁いで来たって話を。けれど彼は妻を望んでいなかった。それどころか、追い出す為に剣を抜こうとしたらしいじゃないか……」
「ダ、ダリウス…」
その声には、どこかエルウィンに対して憎しみを抱いているかのような言い方だった――