身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
5-7 3人でのコーヒータイム
「エルウィン様、お飲み物をお持ちしました」
シュミットは扉をノックしながら声をかけた。
『入れ』
直ぐに返事が返って来たのでシュミットは扉を開けた。
「失礼致します」
扉を開けて室内に入ると、エルウィンは書類に目を通していた。
その姿を目にしたたシュミットは目を丸くした。まさか、自分の不在中にエルウィンが仕事をしているとは思わなかったからだ。
「へ~…大将も真面目に仕事をされるんですね」
後ろからヒョイと顔を出して来たスティーブが笑顔でエルウィンに声をかける。彼は生真面目なシュミットとは違い、身分関係なく誰にでも気軽に声をかけるタイプなのであった。
「何だ、お前も来ていたのか? 何の用だ?」
ジロリとエルウィンはスティーブを睨み付けると、すぐに難しい顔を浮かべながら再び書類に目を通し始めた。
「お前の言う通り、確かに機嫌は悪そうだがそれにしては真面目に仕事をしているじゃないか?」
スティーブはシュミットの耳元で囁いた。
「おい、スティーブ。全て聞こえているぞ?」
地獄耳のエルウィンにはしっかりスティーブの台詞が耳に届き、不機嫌な顔つきで睨み付けていた。
「えっ!? も、もしかして聞こえたんですかっ!? た、大変失礼致しました!」
スティーブは頭を下げて謝った。
「まぁ、いい。それよりシュミット。直ぐにコーヒーを淹れてくれ」
「はい、かしこまりました」
シュミットは室内に入ると、慣れた手つきでコーヒーを淹れ始めた。
****
上座に座ったのはエルウィン。そしてテーブルを挟み、シュミットとスティーブが座り、3人でのティータイムが始まっていた。
「ふ~美味い。大将、やっぱりシュミットの淹れるコーヒーは最高っすね」
スティーブがコーヒーを飲みながらしみじみ言う。
「そうだな。やはり戦場で飲むコーヒーとは全然違う。コーヒーを飲むなら我が城が一番だな。尤も本当はブランデー入りの紅茶が飲みたかったのだが」
ジロリとエルウィンはシュミットを恨めし気な目で見る。
「エルウィン様。お酒でしたら就寝前にどうぞ浴びる程ご自由にお好きなだけお飲み下さい。ただし、翌日の業務に差し支えない程度でお願い致しますね」
「誰が浴びる程飲むか。大体来る日も来る日も書類の仕事漬け……一体いつになったら俺はこの業務から解放されるんだ?」
シュミットの言葉にエルウィンが反論する。
「う~ん…それは大将が越冬期間に入るまで仕事をさぼっていたツケが回ってきたんじゃないですかね~」
「スティーブッ! 俺は別にさぼってなんかいなかったぞ? ただ、今回は越冬期間に入る直前にカルタン族との戦があっただろう? その後陛下が褒美として妻を娶らせてやるなどと訳の分からない書簡をおくりつけてくるから業務が手に着かなかっただけだ」
エルウィンから出て来た『妻』の話に、シュミットとスティーブがピクリと反応する。
「そう言えば、あのステニウス伯爵の娘はどうなったのだろうな……」
「さ、さぁ……き、きっとどこかで元気に暮らしているんじゃないですか!?」
エルウィンの呟きに焦りながらスティーブは答えた。
「ええ、エルウィン様が気にされる事はありませんよ。お元気でいらしているはずですから。それよりもハンドクリームは喜んで頂けましたか?」
シュミットも早くこの話を切り上げたく、話題を変えた。
「ハンドクリーム? あぁ……すごく喜んでくれていたな……」
しかし、腕組みして答えるエルウィンは増々機嫌が悪くなってくる。
(そ、そうだ……エルウィン様はハンドクリームを届けに行って……ご機嫌斜めで戻っていらしたのだった……!)
シュミットは今更ながら、自分が失言してしまったことに気付いた。するとすかさずスティーブがエルウィンに尋ねた。
「ところでエルウィン様、何故突然下働きや領民達の為にハンドクリームを配ろうと思ったんですか?」
「そ、それは…」
エルウィンはそこで言葉を切った――
シュミットは扉をノックしながら声をかけた。
『入れ』
直ぐに返事が返って来たのでシュミットは扉を開けた。
「失礼致します」
扉を開けて室内に入ると、エルウィンは書類に目を通していた。
その姿を目にしたたシュミットは目を丸くした。まさか、自分の不在中にエルウィンが仕事をしているとは思わなかったからだ。
「へ~…大将も真面目に仕事をされるんですね」
後ろからヒョイと顔を出して来たスティーブが笑顔でエルウィンに声をかける。彼は生真面目なシュミットとは違い、身分関係なく誰にでも気軽に声をかけるタイプなのであった。
「何だ、お前も来ていたのか? 何の用だ?」
ジロリとエルウィンはスティーブを睨み付けると、すぐに難しい顔を浮かべながら再び書類に目を通し始めた。
「お前の言う通り、確かに機嫌は悪そうだがそれにしては真面目に仕事をしているじゃないか?」
スティーブはシュミットの耳元で囁いた。
「おい、スティーブ。全て聞こえているぞ?」
地獄耳のエルウィンにはしっかりスティーブの台詞が耳に届き、不機嫌な顔つきで睨み付けていた。
「えっ!? も、もしかして聞こえたんですかっ!? た、大変失礼致しました!」
スティーブは頭を下げて謝った。
「まぁ、いい。それよりシュミット。直ぐにコーヒーを淹れてくれ」
「はい、かしこまりました」
シュミットは室内に入ると、慣れた手つきでコーヒーを淹れ始めた。
****
上座に座ったのはエルウィン。そしてテーブルを挟み、シュミットとスティーブが座り、3人でのティータイムが始まっていた。
「ふ~美味い。大将、やっぱりシュミットの淹れるコーヒーは最高っすね」
スティーブがコーヒーを飲みながらしみじみ言う。
「そうだな。やはり戦場で飲むコーヒーとは全然違う。コーヒーを飲むなら我が城が一番だな。尤も本当はブランデー入りの紅茶が飲みたかったのだが」
ジロリとエルウィンはシュミットを恨めし気な目で見る。
「エルウィン様。お酒でしたら就寝前にどうぞ浴びる程ご自由にお好きなだけお飲み下さい。ただし、翌日の業務に差し支えない程度でお願い致しますね」
「誰が浴びる程飲むか。大体来る日も来る日も書類の仕事漬け……一体いつになったら俺はこの業務から解放されるんだ?」
シュミットの言葉にエルウィンが反論する。
「う~ん…それは大将が越冬期間に入るまで仕事をさぼっていたツケが回ってきたんじゃないですかね~」
「スティーブッ! 俺は別にさぼってなんかいなかったぞ? ただ、今回は越冬期間に入る直前にカルタン族との戦があっただろう? その後陛下が褒美として妻を娶らせてやるなどと訳の分からない書簡をおくりつけてくるから業務が手に着かなかっただけだ」
エルウィンから出て来た『妻』の話に、シュミットとスティーブがピクリと反応する。
「そう言えば、あのステニウス伯爵の娘はどうなったのだろうな……」
「さ、さぁ……き、きっとどこかで元気に暮らしているんじゃないですか!?」
エルウィンの呟きに焦りながらスティーブは答えた。
「ええ、エルウィン様が気にされる事はありませんよ。お元気でいらしているはずですから。それよりもハンドクリームは喜んで頂けましたか?」
シュミットも早くこの話を切り上げたく、話題を変えた。
「ハンドクリーム? あぁ……すごく喜んでくれていたな……」
しかし、腕組みして答えるエルウィンは増々機嫌が悪くなってくる。
(そ、そうだ……エルウィン様はハンドクリームを届けに行って……ご機嫌斜めで戻っていらしたのだった……!)
シュミットは今更ながら、自分が失言してしまったことに気付いた。するとすかさずスティーブがエルウィンに尋ねた。
「ところでエルウィン様、何故突然下働きや領民達の為にハンドクリームを配ろうと思ったんですか?」
「そ、それは…」
エルウィンはそこで言葉を切った――