身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
5-10 2人を監視する者達
「おい、ダリウス。あれ見てみろよ」
ダリウスが粉挽の仕事をしている時、仲間内の1人が彼に声をかけてきた。
「どうかしたのか?」
すると仲間がある1点を指示した。
「ほら……あそこ、見て見ろよ」
「あ……」
ダリウスの目の先にはスティーブがアリアドネの仕事を手伝いながら談笑している姿があった。
「スティーブ様……ここ最近、毎日アリアドネの元に足繫く通っているな。女たちの間では、スティーブ様はアリアドネに結婚を申し込んでいる……なんて噂まで出始めているらしいぜ?」
その言葉にダリウスは青ざめた。
「な、何だってっ!? け、結婚だって! そ、そんな……」
ダリウスのあまりの落ち込みように仲間は驚いた。
「ま、まぁ……あくまで噂だからな。そんなに気になるなら自分で直接スティーブ様に……聞けるはずはないか、アリアドネに聞いてみることだな」
「アリアドネに……?」
そしてダリウスはじっと2人の様子を伺った。アリアドネに笑いかけているスティーブに険しい視線を向けながら……。
****
ダリウスに見られていることも気づかず、アリアドネとスティーブは2人で針仕事をしていた。アリアドネはエプロンを、そしてスティーブは雑巾を縫っていた。
「本当にスティーブ様は針仕事が上手ですね」
アリアドネは手際よく雑巾を縫っているスティーブを見つめながら声を掛けた。
「ああ、こういう仕事は得意なんだ。何しろ戦場では必要な技術だからな」
得意げに答えるスティーブにアリアドネは首を傾げる。
「え……? 戦場で……?」
(まさか戦いで破れた服を縫うのかしら?)
「剣で切られた場合の傷の縫合は任してくれよ」
「え?」
アリアドネは一瞬、何の事か分からなかった。
「あまり深い傷はやはり縫合しないとならないんだ。包帯で押さえるだけじゃ傷は塞がらないからな。尤も戦場じゃ麻酔なんか無いから縫合するときは皆で押さえつけて縫うんだ。そうじゃないと暴れらて手元が狂って……」
そこまで言いかけてスティーブは言葉を切った。何故ならアリアドネが青い顔で話を聞いていたからだ。
「わ、悪かったな。そ、その……女性にはあまり聞かせるような話じゃなかった。すまない、配慮が足りなくて」
スティーブは素直に頭を下げた。
「いえ。お気になさらないで下さい。ただ少し驚いただけですから。でも本当に皆さん、国を守る為に命懸けで戦って下さっているのですね。この国が平和なのはアイゼンシュタット城の方々のお陰ですね。ありがとうございます」
アリアドネは笑みを浮かべて頭を下げた。
「い、いや。それほどのことじゃ無いさ。これが俺達の日常だから。第一もう慣れてるしな」
「フフ……。流石ですね」
****
「…」
親しげに話すアリアドネとスティーブの様子を見つめているのはダリウスだけでは無かった。
地下通路の奥からじっと2人を見つめる人物がいた。目深に被ったフードで顔は隠されているが、彼はランベールであった。
片時もアリアドネから目を離さずに呟く。
「やはり……あの女……あの時、顔は見えなかったが、あの見事な金髪は間違いないな……。エルウィンが気にかけていた女だ」
あの日、通路でシュミットとスティーブの話を偶然耳にしたランベールはスティーブの様子を遠くから毎日監視していたのだ。
そして、アリアドネの存在を知った。
「恐らく、あの女がアリアドネ……エルウィンの妻として城にやってきたという伯爵家の娘だな…? それにしても何と美しい娘なのだ。城で働くメイドや娼婦達とは比べようも無い……」
そしてランベールは思った。
アリアドネを我が物にしたい――と。
ダリウスが粉挽の仕事をしている時、仲間内の1人が彼に声をかけてきた。
「どうかしたのか?」
すると仲間がある1点を指示した。
「ほら……あそこ、見て見ろよ」
「あ……」
ダリウスの目の先にはスティーブがアリアドネの仕事を手伝いながら談笑している姿があった。
「スティーブ様……ここ最近、毎日アリアドネの元に足繫く通っているな。女たちの間では、スティーブ様はアリアドネに結婚を申し込んでいる……なんて噂まで出始めているらしいぜ?」
その言葉にダリウスは青ざめた。
「な、何だってっ!? け、結婚だって! そ、そんな……」
ダリウスのあまりの落ち込みように仲間は驚いた。
「ま、まぁ……あくまで噂だからな。そんなに気になるなら自分で直接スティーブ様に……聞けるはずはないか、アリアドネに聞いてみることだな」
「アリアドネに……?」
そしてダリウスはじっと2人の様子を伺った。アリアドネに笑いかけているスティーブに険しい視線を向けながら……。
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ダリウスに見られていることも気づかず、アリアドネとスティーブは2人で針仕事をしていた。アリアドネはエプロンを、そしてスティーブは雑巾を縫っていた。
「本当にスティーブ様は針仕事が上手ですね」
アリアドネは手際よく雑巾を縫っているスティーブを見つめながら声を掛けた。
「ああ、こういう仕事は得意なんだ。何しろ戦場では必要な技術だからな」
得意げに答えるスティーブにアリアドネは首を傾げる。
「え……? 戦場で……?」
(まさか戦いで破れた服を縫うのかしら?)
「剣で切られた場合の傷の縫合は任してくれよ」
「え?」
アリアドネは一瞬、何の事か分からなかった。
「あまり深い傷はやはり縫合しないとならないんだ。包帯で押さえるだけじゃ傷は塞がらないからな。尤も戦場じゃ麻酔なんか無いから縫合するときは皆で押さえつけて縫うんだ。そうじゃないと暴れらて手元が狂って……」
そこまで言いかけてスティーブは言葉を切った。何故ならアリアドネが青い顔で話を聞いていたからだ。
「わ、悪かったな。そ、その……女性にはあまり聞かせるような話じゃなかった。すまない、配慮が足りなくて」
スティーブは素直に頭を下げた。
「いえ。お気になさらないで下さい。ただ少し驚いただけですから。でも本当に皆さん、国を守る為に命懸けで戦って下さっているのですね。この国が平和なのはアイゼンシュタット城の方々のお陰ですね。ありがとうございます」
アリアドネは笑みを浮かべて頭を下げた。
「い、いや。それほどのことじゃ無いさ。これが俺達の日常だから。第一もう慣れてるしな」
「フフ……。流石ですね」
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「…」
親しげに話すアリアドネとスティーブの様子を見つめているのはダリウスだけでは無かった。
地下通路の奥からじっと2人を見つめる人物がいた。目深に被ったフードで顔は隠されているが、彼はランベールであった。
片時もアリアドネから目を離さずに呟く。
「やはり……あの女……あの時、顔は見えなかったが、あの見事な金髪は間違いないな……。エルウィンが気にかけていた女だ」
あの日、通路でシュミットとスティーブの話を偶然耳にしたランベールはスティーブの様子を遠くから毎日監視していたのだ。
そして、アリアドネの存在を知った。
「恐らく、あの女がアリアドネ……エルウィンの妻として城にやってきたという伯爵家の娘だな…? それにしても何と美しい娘なのだ。城で働くメイドや娼婦達とは比べようも無い……」
そしてランベールは思った。
アリアドネを我が物にしたい――と。