身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
6-1 犯人の噂話
ランベールが地下牢で殺害されたという事件はあっという間に城中に……そしてアリアドネ達の耳にも届いた――
ご前9時――
いつものように仕事場に集まりそれぞれの作業をしている時のことだった。
寮長であり、リーダーのビルが大慌てで仕事場に駆けつけてくると声を張り上げたのだ。
「大変だっ! 皆、聞いてくれっ! ランベール様が地下牢で昨夜何者かに殺害されたそうだっ!」
その情報に、仕事場で作業をしていた人々はあっという間に騒然となり、もはや仕事どころではなくなってしまった。
糸紬の仕事をしていたアリアドネは驚きのあまり、作業の手を止めた。隣では同じく糸紬をしていたセリアの姿もある。
「ま、まさか……ランベール様が…」
真っ青になって身体を震わせているアリアドネにセリアは声をかけた。
「アリアドネ……大丈夫?」
「は、はい……驚いてしまって……」
アリアドネに昨日の恐怖が蘇ってくる。
いきなり目の前に現れたランベール。力強い腕でつかまれ、無理やり寝所へ連れていかれそうになったこと。そこへ駆けつけてきたエルウィン達。
ランベールの首筋に剣を突き立て、怒りの姿を露わにするエルウィン……。
それらの情景が鮮明に脳裏に蘇ってくる。
「顔色が悪いわ……。今日は仕事は休んで、寮に戻ったらどうかしら?」
セリアがアリアドネに声をかけた時、イゾルネが首を振った。
「休むのは賛成だけど……でも1人で寮に戻るのはどうかと思うよ」
「イゾルネさん、何故ですか?」
セリアが尋ねた。
「どうやら、ランベール様を殺害した犯人はまだ見つけられていないそうなんだ。つまり、この城のどこかに犯人がまだ潜んでいるということだ」
「あ……」
その言葉にアリアドネは青ざめた。
「言われて見れば確かにそうね。昨日はたまたま吹雪がやんだけれども、今日はとても吹雪いているし、既に城の周囲は高く降り積もった雪で完全に閉ざされているからこの城から出ることなど出来るはずもないわ……」
セリアの言葉にアリアドネは震えながら、つい自分の思っている不安を口にしてしまった。
「そんな……それでは殺人鬼がこのアイゼンシュタットに潜んでいるかもしれないと言う事でしょうか……? もしかすると、犯人は更に別の殺人をするつもりなのでしょうか……?」
「大丈夫だ、そんなことはおこらないよ。もう次の殺人なんか絶対に起こらない」
するとそこへダリウスが現れた。彼の手には大きな籠がある。
「ダリウス……? 何故ここへ?」
アリアドネが尋ねるとダリウスは籠を床の上に置いた。
「何故って、今日は俺も亜麻糸作りの作業に入っているからさ。アリアドネ達は亜麻紬の仕事なんだろう? だから亜麻の茎を砕いた繊維を運んできたんだよ」
「そうだったのかい。だけど、さっきの話だけど、何故そんな事が言いきれるんだい?」
イゾルネが尋ねた。
「そんなのは簡単さ。犯人はエルウィン様に決まっているからだよ。エルウィン様はランベール様に女性が連れ去られたと言う話を聞いた時ものすごい剣幕で、どんな女性が連れ去られたか尋ねたんだよ。マリアさんはアリアドネの名は告げずに、君の特徴をエルウィン様に報告したら、真っ青な顔になって城に向かって駆け出して行ったんだ。あの方は君を狙ったことが許せなかったんだよ。それで怒りに任せて、夜に地下牢に忍び込んでランベール様を殺したに決まっている。もともとエルウィン様とランベール様は激しく対立していたという話じゃないか」
その時――
「誰が、ランベール様を殺しただって?」
怒気を含んだ声がすぐそばで聞こえた。
その場にいた全員が声の聞こえた方角を振り向くと、怒りの目をダリウスに向けて立っているスティーブの姿がそこにあった――
ご前9時――
いつものように仕事場に集まりそれぞれの作業をしている時のことだった。
寮長であり、リーダーのビルが大慌てで仕事場に駆けつけてくると声を張り上げたのだ。
「大変だっ! 皆、聞いてくれっ! ランベール様が地下牢で昨夜何者かに殺害されたそうだっ!」
その情報に、仕事場で作業をしていた人々はあっという間に騒然となり、もはや仕事どころではなくなってしまった。
糸紬の仕事をしていたアリアドネは驚きのあまり、作業の手を止めた。隣では同じく糸紬をしていたセリアの姿もある。
「ま、まさか……ランベール様が…」
真っ青になって身体を震わせているアリアドネにセリアは声をかけた。
「アリアドネ……大丈夫?」
「は、はい……驚いてしまって……」
アリアドネに昨日の恐怖が蘇ってくる。
いきなり目の前に現れたランベール。力強い腕でつかまれ、無理やり寝所へ連れていかれそうになったこと。そこへ駆けつけてきたエルウィン達。
ランベールの首筋に剣を突き立て、怒りの姿を露わにするエルウィン……。
それらの情景が鮮明に脳裏に蘇ってくる。
「顔色が悪いわ……。今日は仕事は休んで、寮に戻ったらどうかしら?」
セリアがアリアドネに声をかけた時、イゾルネが首を振った。
「休むのは賛成だけど……でも1人で寮に戻るのはどうかと思うよ」
「イゾルネさん、何故ですか?」
セリアが尋ねた。
「どうやら、ランベール様を殺害した犯人はまだ見つけられていないそうなんだ。つまり、この城のどこかに犯人がまだ潜んでいるということだ」
「あ……」
その言葉にアリアドネは青ざめた。
「言われて見れば確かにそうね。昨日はたまたま吹雪がやんだけれども、今日はとても吹雪いているし、既に城の周囲は高く降り積もった雪で完全に閉ざされているからこの城から出ることなど出来るはずもないわ……」
セリアの言葉にアリアドネは震えながら、つい自分の思っている不安を口にしてしまった。
「そんな……それでは殺人鬼がこのアイゼンシュタットに潜んでいるかもしれないと言う事でしょうか……? もしかすると、犯人は更に別の殺人をするつもりなのでしょうか……?」
「大丈夫だ、そんなことはおこらないよ。もう次の殺人なんか絶対に起こらない」
するとそこへダリウスが現れた。彼の手には大きな籠がある。
「ダリウス……? 何故ここへ?」
アリアドネが尋ねるとダリウスは籠を床の上に置いた。
「何故って、今日は俺も亜麻糸作りの作業に入っているからさ。アリアドネ達は亜麻紬の仕事なんだろう? だから亜麻の茎を砕いた繊維を運んできたんだよ」
「そうだったのかい。だけど、さっきの話だけど、何故そんな事が言いきれるんだい?」
イゾルネが尋ねた。
「そんなのは簡単さ。犯人はエルウィン様に決まっているからだよ。エルウィン様はランベール様に女性が連れ去られたと言う話を聞いた時ものすごい剣幕で、どんな女性が連れ去られたか尋ねたんだよ。マリアさんはアリアドネの名は告げずに、君の特徴をエルウィン様に報告したら、真っ青な顔になって城に向かって駆け出して行ったんだ。あの方は君を狙ったことが許せなかったんだよ。それで怒りに任せて、夜に地下牢に忍び込んでランベール様を殺したに決まっている。もともとエルウィン様とランベール様は激しく対立していたという話じゃないか」
その時――
「誰が、ランベール様を殺しただって?」
怒気を含んだ声がすぐそばで聞こえた。
その場にいた全員が声の聞こえた方角を振り向くと、怒りの目をダリウスに向けて立っているスティーブの姿がそこにあった――