身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
6-6 アリアドネの申し出
翌朝6時――
「う~ん……困ったことになった……」
アリアドネが厨房で朝食の準備の為に野菜を切っていると、隣のかまどでスープを煮込んでいたマリアがうなっていた。
「どうかしたのですか?」
「ああ……実は、セリアの事なんだよ」
「そう言えば今朝はセリアさんの姿が見えませんね。確か本日はセリアさんも私たちと一緒に食事当番でしたよね?」
アリアドネは厨房で働く女性達を見渡しながらマリアに尋ねた。
「そうなんだけど……実はセリアが風邪をひいてしまって高熱があるんだよ」
「まぁ、そうだったのですか? では私がセリアさんの食事をお部屋まで運びましょうか? 糸紬の仕事もセリアさんの分まで頑張ります。何しろ昨日は仕事をお休みさせて頂いたのですから」
「ああ、それなら大丈夫だよ。イゾルネが部屋に届けると言っていたからね。大体、アリアドネは昨日は靴下を編んでくれていたじゃないか。仕事を休んだなんて思う必要は無いよ。それよりも問題なのは……実は今日セリアはエルウィン様に呼ばれているんだよ」
「エルウィン様にですか?」
アリアドネは首を傾げた。
「今日は11時からランベール様の葬儀が執り行われる話は知っているだろう?」
「はい、昨日伺いましたから」
アリアドネは切り終えた野菜をざるに入れると返事をする。
「実は喪主を務めるエルウィン様の支度の手伝いにセリアが指名されていたんだよ。彼女は10年前はエルウィン様の専属メイドを務めていからね。エルウィン様が直々にセリアを指名してきたんだ。礼服を合わせる支度を手伝って欲しいとね。けれど、セリアは高熱を出してしまっただろう? おまけにエルウィン様は城のメイドたちが気に食わなくて、自分の周囲に近づけたくないんだよ」
「そうだったのですか……」
アリアドネは玉ねぎの皮をむきながら返事をする。
「はぁ~……困ったものだ……セリア以外に礼服を合わせる事が出来る者なんてここにはいないのに……」
深いため息をつくマリア。
少しの間、アリアドネは黙って話を聞いていたが……。
「あの……私でよろしければ、エルウィン様の礼服合わせを行いましょうか?」
「え? そんなことが出来るのかい?」
マリアは驚いたようにアリアドネを見る。
「はい、屋敷にいた頃はそのような仕事もしておりましたから」
アリアドネは少しだけ父親の事を思い出していた。
(お父様は元気にしていらっしゃるのかしら? 結局私はお父様の期待に添える事が出来ずに下働きとしてお城で働かせてもらっているけど……)
「でも……いいのかい? エルウィン様の所に行かせても」
マリアの顔には心配そうな表情が浮かんでいる。
「はい、大丈夫です。エルウィン様は私の正体をご存じありませんし、お返ししたいものがありますので」
アリアドネのエプロンのポケットにはずっと返せないでいるクラバットがいまだに入っている。
「そうかい? 何だか悪いね。正体がもしバレそうになったら笑ってごまかしてしまいな」
「笑って……ですか?」
「ああ、そうさ」
マリアの顔は笑っている。
「分かりました。笑ってごまかしてみますね。それで何時にどこへ伺えばよいのでしょうか?」
「9時にエルウィン様の執務室だよ。あ、でも安心しな。シュミット様が仕事場に迎えに来てくれることになっているから一緒に行けばいいよ」
「はい、分かりました」
そして話がまとまった2人は朝食の準備に集中した――
「う~ん……困ったことになった……」
アリアドネが厨房で朝食の準備の為に野菜を切っていると、隣のかまどでスープを煮込んでいたマリアがうなっていた。
「どうかしたのですか?」
「ああ……実は、セリアの事なんだよ」
「そう言えば今朝はセリアさんの姿が見えませんね。確か本日はセリアさんも私たちと一緒に食事当番でしたよね?」
アリアドネは厨房で働く女性達を見渡しながらマリアに尋ねた。
「そうなんだけど……実はセリアが風邪をひいてしまって高熱があるんだよ」
「まぁ、そうだったのですか? では私がセリアさんの食事をお部屋まで運びましょうか? 糸紬の仕事もセリアさんの分まで頑張ります。何しろ昨日は仕事をお休みさせて頂いたのですから」
「ああ、それなら大丈夫だよ。イゾルネが部屋に届けると言っていたからね。大体、アリアドネは昨日は靴下を編んでくれていたじゃないか。仕事を休んだなんて思う必要は無いよ。それよりも問題なのは……実は今日セリアはエルウィン様に呼ばれているんだよ」
「エルウィン様にですか?」
アリアドネは首を傾げた。
「今日は11時からランベール様の葬儀が執り行われる話は知っているだろう?」
「はい、昨日伺いましたから」
アリアドネは切り終えた野菜をざるに入れると返事をする。
「実は喪主を務めるエルウィン様の支度の手伝いにセリアが指名されていたんだよ。彼女は10年前はエルウィン様の専属メイドを務めていからね。エルウィン様が直々にセリアを指名してきたんだ。礼服を合わせる支度を手伝って欲しいとね。けれど、セリアは高熱を出してしまっただろう? おまけにエルウィン様は城のメイドたちが気に食わなくて、自分の周囲に近づけたくないんだよ」
「そうだったのですか……」
アリアドネは玉ねぎの皮をむきながら返事をする。
「はぁ~……困ったものだ……セリア以外に礼服を合わせる事が出来る者なんてここにはいないのに……」
深いため息をつくマリア。
少しの間、アリアドネは黙って話を聞いていたが……。
「あの……私でよろしければ、エルウィン様の礼服合わせを行いましょうか?」
「え? そんなことが出来るのかい?」
マリアは驚いたようにアリアドネを見る。
「はい、屋敷にいた頃はそのような仕事もしておりましたから」
アリアドネは少しだけ父親の事を思い出していた。
(お父様は元気にしていらっしゃるのかしら? 結局私はお父様の期待に添える事が出来ずに下働きとしてお城で働かせてもらっているけど……)
「でも……いいのかい? エルウィン様の所に行かせても」
マリアの顔には心配そうな表情が浮かんでいる。
「はい、大丈夫です。エルウィン様は私の正体をご存じありませんし、お返ししたいものがありますので」
アリアドネのエプロンのポケットにはずっと返せないでいるクラバットがいまだに入っている。
「そうかい? 何だか悪いね。正体がもしバレそうになったら笑ってごまかしてしまいな」
「笑って……ですか?」
「ああ、そうさ」
マリアの顔は笑っている。
「分かりました。笑ってごまかしてみますね。それで何時にどこへ伺えばよいのでしょうか?」
「9時にエルウィン様の執務室だよ。あ、でも安心しな。シュミット様が仕事場に迎えに来てくれることになっているから一緒に行けばいいよ」
「はい、分かりました」
そして話がまとまった2人は朝食の準備に集中した――