身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

6-8 意気投合する2人の男

「お前は確か……」

エルウィンはアリアドネを見おろした。

(エルウィン様に問い詰められる前に私から先に説明しなくては!)

アリアドネはそこですぐに説明した。

「はい、私は越冬期間中こちらのお城でお世話になっております領民のリアと申します。本日はセリアさんが風邪を引いて寝こまれてしまったので私が代わりに城主様のお召し物のお手伝いに伺わせていただきました」

「え……?」

シュミットは戸惑いの声を上げた。

(リアだって……? そうか、うっかり何も考えもせずにアリアドネ様をお連れしてしまったが、確かにエルウィン様の前で本名を明かすわけにはいかないな……。それにしても偽名まで考えておられたとは。アリアドネ様はなかなか切れ者かもしれない)

「そうか、お前はリアと言う名前なのか。しかし、お前に礼服の合わせ方が分かるのか?」

アリアドネの正体を知らないエルウィンにとっては尤もな質問である。

「はい、私は以前貴族のとある方のお屋敷でメイドとして奉公させて頂いた経験がございます。城主様のお役に立てるように精一杯務めさせて頂きます」

「そうか……なら頼むか。中へ入ってくれ」

エルウィンは扉を大きく開けた。

「はい、失礼致します」

アリアドネが室内へ入っていくと、シュミットも後からついてきた。

ダンッ!

エルウィンは入り口を片手で塞ぐとジロリとシュミットを睨みつけた。

「おい、シュミット」

「はい、何でしょう?」

涼しい顔で返事をするシュミット。

「何故お前まで中に入って来ようとするのだ?」

「それは年若い娘さんとエルウィン様を2人きりにするわけにはいかないからです」

「何?」

エルウィンの眉が険しくなる。

「お前……確か葬儀の準備で礼拝堂へ行かなくてはならないはずだったよな?」

「ええ。ですがエルウィン様の着替えが終わってからでも大丈夫でしょう。多少私が遅れたところで所詮葬儀を中心に執り行うのはランベール様の最側近だったボルド様とドミニコ様ですから」

「ああ、それは理解した。だがな……お前、一体俺をどういう目で見ているんだ?」

「どういう目……とはどういう事でしょうか?」

まるでエルウィンとシュミットは互いに牽制しあうかの如く、お互いの出方をうかがっている。
一方、少し離れたところでアリアドネは困った様子で2人の様子を見つめていた。

(エルウィン様とシュミット様はどうしたのかしら。準備に入らなくて大丈夫なのかしら……?)

これらのやり取りは、すべて互いに牽制しあうかのようにぼそぼそと顔を寄せあって話している為、アリアドネには2人の会話が全く聞こえなかったのだ。

「シュミット、お前まさか俺があの領民に手を出すとでも思っているのか?」

「そうは申しておりませんが、何かあらぬ噂が立てられては足元をすくわれかねませんからね。私の口から言うのは憚れますが……エルウィン様は敵が多い方ですから」

その言葉にエルウィンの眉が上がる。

「何が憚れるだ……よくも堂々と俺の前でそんな口が叩けるな?」

「ええ。エルウィン様とは子供の頃からのお付き合いですから」

今や2人は一種即発状態である。

そこへタイミング良く? エルウィンに用があったスティーブがやってきた。
そしてすぐに2人の様子がおかしいことに気付き、笑顔で声をかけた。

「あれ? 何をしているんです大将、シュミット。2人が睨みあっているなんて珍しいじゃないですか?」


「「スティーブッ!!」」

エルウィンとシュミットが同時に声を上げる。

「大将、実は葬儀の件で話が……って、あっ!」

スティーブは室内にいたアリアドネに気付き、声を上げた。

「アリ……ムゴッ!」

そこでスティーブはシュミットに口をふさがれた。

「おいシュミット? お前、何やってるんだ?」

エルウィンが首をかしげる。そこでアリアドネは咄嗟にスティーブに挨拶した。

「おはようございます。スティーブ様。領民のリアです。今朝は城主様の式服選びのお手伝いに参りました」

自分から偽名を告げればスティーブは気付いてくれるに違いない……アリアドネは瞬時に判断したのだ。

「何だって? よし、それなら俺も大将の式服選びに付き合うぞ!」

スティーブはシュミットの腕を振り解く。

「何っ!?」

これに驚いたのはエルウィンだ。

「馬鹿な事を言うな! お前はそんな柄じゃないだろうっ!?」

「いいえ、エルウィン様。ここは是非スティーブにも協力して頂きましょう」

シュミットは力強く頷く。

「はあ!? お前ら本気で言ってるのかっ!?」

「「はい!!」」

エルウィンの言葉に同時に返事をするシュミットとスティーブ。

2人が考えていることは同じだった。

絶対にエルウィンとアリアドネを2人きりにさせてはいけない――





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