身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
6-12 挑発する男
「それは一体どういう意味なんだ? エルウィン様にアリアドネが呼ばれると何故気がかりなんだ?」
スティーブはエルウィンをよくからかうことは合ったが、それでもアイゼンシュタット城の城主として、騎士として尊敬していた。だからエルウィンを悪く言う者は許せなかったのだ。
「お言葉通りですが? 私が何も知らないとでも思っているのですか? 本当はアリアドネは城主様の妻となるべく、この城へやってきたのですよね? それなのに、城主様は無下にも追い払おうとした。だから彼女はこんな下働きに身を置いているのではありませんか?」
ダリウスは臆すること無くスティーブの前で言い切った。
「ダリウスッ!?」
アリアドネがダリウスの言葉に目を見張る。
「お、お前……!」
スティーブは殺気をこめてダリウスを睨みつけた。
仮にもスティーブはこの城の第一騎士団長であり、その強さは諸外国にまで知れ渡る程であった。それなのにスティーブが睨みつけても全く動じることのないダリウスに言いようのない違和感を感じていた。
(この男……。一体何者だ? この俺の殺気を込めた目を見ても動じることがないなんて。本当にただの領民なのか?)
一方、スティーブの殺気に怯えているのはアリアドネの方だった。いつもにこやかに笑みを浮かべ、朗らかなスティーブしか目にした事が無かったアリアドネは、その変貌ぶりに驚き……足がすくんでしまった。
アリアドネが怯えている様子にダリウスは気付いていた。
「アリアドネ、おいで」
ダリウスはアリアドネの腕を掴んで自分の方に引き寄せ、アリアドネをスティーブから守るように囲込む。
「スティーブ様、アリアドネが怯えているじゃないですか。か弱い女性の前で殺気を放つのはおやめください」
穏やかな言い方では合ったが、その眼光は鋭かった。いつものスティーブならこのような事ぐらいでは引かないが、アリアドネが絡んでくるとそうはいかない。
「あ
「す、すまないっ!ア リアドネッ!」
スティーブは瞬時に殺気を消すと、アリアドネに謝った。
(まずい……いつもの癖がでてしまった。彼女の前なのに殺気を放ってしまうなんて)
他の者達から恐れられてもいい。
だが、アリアドネからは自分に対する恐怖心を抱いて欲しくは無かった。
「い、いえ……少し驚いただけですから……」
しかし、まだアリアドネの身体は震えている。
「大丈夫か? アリアドネ」
ダリウスはアリアドネの髪を撫でながら尋ねてくる。その様子もスティーブを苛立たせた。
(この男……俺がアリアドネに好意を抱いているのを知っていてわざとやっているんだな)
しかし、ここで怒りを顕にすればますますアリアドネから怖がられてしまう。そう思ったスティーブは拳を握りしめた。
「アリアドネ、今日はエルウィン様の礼服を選んでくれてありがとう。それじゃ俺は行くよ。これから葬儀に参列しないとならないからな」
「いえ、お役に立てて光栄です」
アリアドネはダリウスの腕の中で返事をした。
「スティーブ様。アリアドネをここまで連れて来て下さってありがとうございます」
何処か皮肉を込めたダリウスの物言いにスティーブはカチンときたが、冷静に答えた。
「レディーを守るのは騎士として当然だからな。それじゃ、またなアリアドネ」
「はい、スティーブ様」
アリアドネの返事に笑顔で応えたスティーブは踵を返すと、マントを翻し、大股でその場を立ち去って行った。
ダリウスが立ち去るとアリアドネはすぐに訴えた。
「ダリウス……手を離してくれる?」
アリアドネは未だにダリウスの腕の中にいたのである。
「ああ。ごめん」
ダリウスが手を離すと、アリアドネは距離を取った。
「……困るわ……あまりスティーブ様の前でこういう事をされると……」
アリアドネの言葉にダリウスは顔をしかめた。
「何故だい? まさかスティーブ様に気があるとでも?」
「いいえ、そう言う事ではないわ。ただ私は本来、エルウィン様の妻となるべくこの城にやってきたのだもの。その事をスティーブ様もシュミット様もご存知なのよ? だからこんな勘違いされるような真似はしないでもらいたいの」
「アリアドネ。まさか君はエルウィン様の妻になろうと考えているのか?」
ダリウスの声が震えている。
「いいえ! だって私はエルウィン様から拒絶されたのよ? それはありえないわ。でも……」
(エルウィン様に……妙な誤解はされたくない……)
それがアリアドネの本心だった――
スティーブはエルウィンをよくからかうことは合ったが、それでもアイゼンシュタット城の城主として、騎士として尊敬していた。だからエルウィンを悪く言う者は許せなかったのだ。
「お言葉通りですが? 私が何も知らないとでも思っているのですか? 本当はアリアドネは城主様の妻となるべく、この城へやってきたのですよね? それなのに、城主様は無下にも追い払おうとした。だから彼女はこんな下働きに身を置いているのではありませんか?」
ダリウスは臆すること無くスティーブの前で言い切った。
「ダリウスッ!?」
アリアドネがダリウスの言葉に目を見張る。
「お、お前……!」
スティーブは殺気をこめてダリウスを睨みつけた。
仮にもスティーブはこの城の第一騎士団長であり、その強さは諸外国にまで知れ渡る程であった。それなのにスティーブが睨みつけても全く動じることのないダリウスに言いようのない違和感を感じていた。
(この男……。一体何者だ? この俺の殺気を込めた目を見ても動じることがないなんて。本当にただの領民なのか?)
一方、スティーブの殺気に怯えているのはアリアドネの方だった。いつもにこやかに笑みを浮かべ、朗らかなスティーブしか目にした事が無かったアリアドネは、その変貌ぶりに驚き……足がすくんでしまった。
アリアドネが怯えている様子にダリウスは気付いていた。
「アリアドネ、おいで」
ダリウスはアリアドネの腕を掴んで自分の方に引き寄せ、アリアドネをスティーブから守るように囲込む。
「スティーブ様、アリアドネが怯えているじゃないですか。か弱い女性の前で殺気を放つのはおやめください」
穏やかな言い方では合ったが、その眼光は鋭かった。いつものスティーブならこのような事ぐらいでは引かないが、アリアドネが絡んでくるとそうはいかない。
「あ
「す、すまないっ!ア リアドネッ!」
スティーブは瞬時に殺気を消すと、アリアドネに謝った。
(まずい……いつもの癖がでてしまった。彼女の前なのに殺気を放ってしまうなんて)
他の者達から恐れられてもいい。
だが、アリアドネからは自分に対する恐怖心を抱いて欲しくは無かった。
「い、いえ……少し驚いただけですから……」
しかし、まだアリアドネの身体は震えている。
「大丈夫か? アリアドネ」
ダリウスはアリアドネの髪を撫でながら尋ねてくる。その様子もスティーブを苛立たせた。
(この男……俺がアリアドネに好意を抱いているのを知っていてわざとやっているんだな)
しかし、ここで怒りを顕にすればますますアリアドネから怖がられてしまう。そう思ったスティーブは拳を握りしめた。
「アリアドネ、今日はエルウィン様の礼服を選んでくれてありがとう。それじゃ俺は行くよ。これから葬儀に参列しないとならないからな」
「いえ、お役に立てて光栄です」
アリアドネはダリウスの腕の中で返事をした。
「スティーブ様。アリアドネをここまで連れて来て下さってありがとうございます」
何処か皮肉を込めたダリウスの物言いにスティーブはカチンときたが、冷静に答えた。
「レディーを守るのは騎士として当然だからな。それじゃ、またなアリアドネ」
「はい、スティーブ様」
アリアドネの返事に笑顔で応えたスティーブは踵を返すと、マントを翻し、大股でその場を立ち去って行った。
ダリウスが立ち去るとアリアドネはすぐに訴えた。
「ダリウス……手を離してくれる?」
アリアドネは未だにダリウスの腕の中にいたのである。
「ああ。ごめん」
ダリウスが手を離すと、アリアドネは距離を取った。
「……困るわ……あまりスティーブ様の前でこういう事をされると……」
アリアドネの言葉にダリウスは顔をしかめた。
「何故だい? まさかスティーブ様に気があるとでも?」
「いいえ、そう言う事ではないわ。ただ私は本来、エルウィン様の妻となるべくこの城にやってきたのだもの。その事をスティーブ様もシュミット様もご存知なのよ? だからこんな勘違いされるような真似はしないでもらいたいの」
「アリアドネ。まさか君はエルウィン様の妻になろうと考えているのか?」
ダリウスの声が震えている。
「いいえ! だって私はエルウィン様から拒絶されたのよ? それはありえないわ。でも……」
(エルウィン様に……妙な誤解はされたくない……)
それがアリアドネの本心だった――