身代わり婚~暴君と呼ばれた辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
7-5 戸惑うアリアドネと苛立つ理由
「全く、何て嫌な女だろう」
「これだから貴族はいやなんだ……」
「もう二度と来ないでほしいな」
人々はゾーイの悪口を言いながら、それぞれの持ち場へ戻っていく。
(私も本当は貴族……。もしここの人達に私の身分が知られてしまったら……)
その時の事を思うとアリアドネは気が重くなった。使用人たちの一部の者はアリアドネの出自を知っているが、他の者たちは知らない。
その時――
「アリアドネ? どうした?」
ダリウスが声をかけてきた。
「い、いいえ。何でも無いの」
すると、突然ダリウスがアリアドネの肩を抱き寄せてきた。
「ごめん、アリアドネ。俺が席を外したばかりにあんな女に嫌な目に遭わされて……すまなかった」
そしてますますアリアドネを抱き寄せる。
「な、何を言ってるの? 今のはダリウスのせいじゃないわ。そ、そんなことより離してくれないかしら?」
(大勢の人々が働いている場所で……夫婦でも恋人同士でも無いのにこの様な真似をさたらどんな噂が立てられるか分かったものではないわ)
アリアドネは焦りながら訴えた。
「あ……ご、ごめん! つい……」
ダリウスは慌ててアリアドネから離れ、謝罪した。
「い、いいのよ。別に……その、悪気が合ったわけじゃないでしょう? 今度から気をつけてくれればいいから」
「ありがとう。それじゃ干し肉作り再開するか?」
「ええ」
そしてアリアドネとダリウスは再び干し肉作りを再開した――
****
「全く……!」
エルウィンはイライラしながら仕事をしていた。
「エルウィン様、どうかされたのですか?」
シュミットは顔を上げてエルウィンに尋ねた。
「どうもこうもあるか。先程、仕事場に足を運んだ時……」
そこまで言いかけて、自分が失言したことに気がついた。
「ほぅ……エルウィン様。今、何とおっしゃいましたか?」
ニコニコしながらシュミットはエルウィンを見る。
「い、いや……それは……」
視線を泳がせながらエルウィンは言葉をつまらせた。
「エルウィン様、私は言いましたよね? 今机の上に乗っている書類に目を通し、決済のサインを入れておいて下さいと。なのに何故でしょうか? まだ机の上には半分以上、サインの無い書類がたまっているようですねぇ?」
むやみやたらとニコニコしているシュミットにエルウィンは焦っていた。
(まずい……シュミットの奴……相当腹を立てているぞ……)
「先程、仕事場に行かれたのですよね? 違いますか?」
シュミットが追求してくる。
「あ、ああ! そうだっ! 行ってきた! だ、だがなぁ? それはミカエルとウリエルが侍女に連れられてここへやってきたからだぞ? 俺は2人に社会勉強をさせる為に仕事場へ連れて行ってやったんだ! 折角……楽しい気分で行ったのに……あの侍女のせいでブチ壊しだ……」
エルウィンは爪を噛みながら眉をしかめた。
「侍女……? もしかするとゾーイ様の事を仰っておられるのですか?」
「ゾーイ? 誰だ? ゾーイって?」
「え……? エルウィン様。その方はミカエル様とウリエル様の侍女ですよ? ご存知無かったのですか?」
「ああ、別に興味は無かったからな。しかし……そうか、あの女ゾーイという名前だったのか……。全く気に入らない。次にまた俺の前に現れたら、絶対に文句を言ってやらないと……」
エルウィンはブツブツ口の中で呟いている。
「エルウィン様? ゾーイ様がどうかされたのですか?」
しかし、もはやエルウィンの耳にはシュミットの言葉は入ってこなかった。
エルウィンはゾーイがアリアドネに対し、失礼な事を言ったのがどうしても許せなかったのだ――
「これだから貴族はいやなんだ……」
「もう二度と来ないでほしいな」
人々はゾーイの悪口を言いながら、それぞれの持ち場へ戻っていく。
(私も本当は貴族……。もしここの人達に私の身分が知られてしまったら……)
その時の事を思うとアリアドネは気が重くなった。使用人たちの一部の者はアリアドネの出自を知っているが、他の者たちは知らない。
その時――
「アリアドネ? どうした?」
ダリウスが声をかけてきた。
「い、いいえ。何でも無いの」
すると、突然ダリウスがアリアドネの肩を抱き寄せてきた。
「ごめん、アリアドネ。俺が席を外したばかりにあんな女に嫌な目に遭わされて……すまなかった」
そしてますますアリアドネを抱き寄せる。
「な、何を言ってるの? 今のはダリウスのせいじゃないわ。そ、そんなことより離してくれないかしら?」
(大勢の人々が働いている場所で……夫婦でも恋人同士でも無いのにこの様な真似をさたらどんな噂が立てられるか分かったものではないわ)
アリアドネは焦りながら訴えた。
「あ……ご、ごめん! つい……」
ダリウスは慌ててアリアドネから離れ、謝罪した。
「い、いいのよ。別に……その、悪気が合ったわけじゃないでしょう? 今度から気をつけてくれればいいから」
「ありがとう。それじゃ干し肉作り再開するか?」
「ええ」
そしてアリアドネとダリウスは再び干し肉作りを再開した――
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「全く……!」
エルウィンはイライラしながら仕事をしていた。
「エルウィン様、どうかされたのですか?」
シュミットは顔を上げてエルウィンに尋ねた。
「どうもこうもあるか。先程、仕事場に足を運んだ時……」
そこまで言いかけて、自分が失言したことに気がついた。
「ほぅ……エルウィン様。今、何とおっしゃいましたか?」
ニコニコしながらシュミットはエルウィンを見る。
「い、いや……それは……」
視線を泳がせながらエルウィンは言葉をつまらせた。
「エルウィン様、私は言いましたよね? 今机の上に乗っている書類に目を通し、決済のサインを入れておいて下さいと。なのに何故でしょうか? まだ机の上には半分以上、サインの無い書類がたまっているようですねぇ?」
むやみやたらとニコニコしているシュミットにエルウィンは焦っていた。
(まずい……シュミットの奴……相当腹を立てているぞ……)
「先程、仕事場に行かれたのですよね? 違いますか?」
シュミットが追求してくる。
「あ、ああ! そうだっ! 行ってきた! だ、だがなぁ? それはミカエルとウリエルが侍女に連れられてここへやってきたからだぞ? 俺は2人に社会勉強をさせる為に仕事場へ連れて行ってやったんだ! 折角……楽しい気分で行ったのに……あの侍女のせいでブチ壊しだ……」
エルウィンは爪を噛みながら眉をしかめた。
「侍女……? もしかするとゾーイ様の事を仰っておられるのですか?」
「ゾーイ? 誰だ? ゾーイって?」
「え……? エルウィン様。その方はミカエル様とウリエル様の侍女ですよ? ご存知無かったのですか?」
「ああ、別に興味は無かったからな。しかし……そうか、あの女ゾーイという名前だったのか……。全く気に入らない。次にまた俺の前に現れたら、絶対に文句を言ってやらないと……」
エルウィンはブツブツ口の中で呟いている。
「エルウィン様? ゾーイ様がどうかされたのですか?」
しかし、もはやエルウィンの耳にはシュミットの言葉は入ってこなかった。
エルウィンはゾーイがアリアドネに対し、失礼な事を言ったのがどうしても許せなかったのだ――