堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「すぐには……わからないっていうか……」
「オッケー。じゃあ、貯金がいくらあるか確認しておいてくれる?」

 孝乃原さんはグラスに半分以上残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干して椅子から立ち上がる。

「あの……」
「俺もこんなこと頼みたくないんだ。でも、結婚したくなったときに無一文なのは嫌だから、無理してでも今がんばっておきたいんだよ」
 
 彼はにこりと微笑み、「また連絡するね」と言い残して去っていった。
 なにが起こったのか頭がついていかず、しばしその場で呆然としてしまう。
 まさかこんな話をされるとは思ってもみなかった。
 私は交際についての返事をするつもりで来たけれど、彼がしたい話はお金の貸し借りについてだったのかもしれない。

「あんな男にカネを貢ぐつもりか?」

 ぼうっと一点を見つめたまま固まっていると、いきなり頭上から低い声が降ってきた。
 驚きつつ見上げた先にいたのは、なんと羽瀬川先生だった。

「羽瀬川先生!」
「君は総務部の……」
「茅田です。先生はどうしてここに?」
「ここはうちの会社から近いし、カレーがうまいからな」

 耳心地のいい素敵な声と整った顔がカッコいいな……などと見惚れている場合ではない。
 どうやら先生は後ろのテーブル席にずっといて、私とは背中合わせで座っていたみたいだ。
 カレーを食べながらタブレットで仕事の資料でも眺めていたのだろう。
 ビジネスバッグとタブレットを持って、先ほどまで孝乃原さんが座っていた場所へ移動してくる。

< 11 / 101 >

この作品をシェア

pagetop