堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 反論の余地などなかった。先生の意見はなにも間違っていない。
 孝乃原さんは私が付き合うと言ったとき、うれしそうな笑みをたたえていたものの、照れたり緊張した様子はなかった。私が出す答えをわかっているかのように余裕だった。
 お金の話をしたら嫌われるかもしれないなんて、まったく考えていなかったように見受けられたけれど。

「仕事で資金調達がうまくいっていないらしくて。そういう差し迫った状況だから、背に腹は代えられないっていうか……」
「フレンチレストランがどうのと言ってたが、あの男は料理人か?」

 その質問に小さく首を横に振ると、羽瀬川先生は続けて「じゃあなんの仕事をしてるんだ?」と尋ねた。
 これではまるで事情聴取でもされているみたいだ。

「友人たちと会社を(おこ)したと聞いています」
「どういう会社?」
「飲食店の出店計画を立てて、店舗を運営? プロデュースしていくとかなんとか……そんな感じでした」
「くわしく聞いてないのか」

 あきれたと言わんばかりに、先生が盛大な溜め息を吐きだした。
 それを見て、知り合って間もないのだから仕方ないじゃないかと心の中で言い訳を並べてみる。
 私だって今日、仕事やお金の話になるとは思ってもみなかったのだ。

「名刺は?」
「え?」
「起業したなら名刺くらい作ってるだろう」
「……もらっていません」

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