堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「二百万は大金だ。そんな薄い情報しか知らない男に貸すなよ?」
「それほどの貯金はありません。でも……五十万円くらいなら……」
「は? ダメだ。絶対に貸すな」

 私と孝乃原さんの関係が希薄だと言うなら、私と羽瀬川先生だってただの同僚にすぎない。
 それなのに、ここまで頑として反対されたのは意外だった。
 先生は他人のことに首を突っ込んであれこれ助言するタイプだとは思っていなかったから。

「いいか、あの男にカネを貸したら一円たりとも戻ってこない。ドブに捨てるのと同じだ。いや、ドブのほうがわずかでも戻ってくる確率が高いな」

 遺失物ならやさしい人が拾ってくれた場合は警察に届けてくれるという意味だ。
 けれど、孝乃原さんに渡せば望みはないと言いたいのだろう。
 辛辣な言葉に思わず反発したくなったけれど、私を心配してくれたのだと思って我慢した。

「私にまで頼んでくるんだから、彼は相当困ってるってことですよね」
「ほかに選択肢がなかった、と?」
「仕事が軌道に乗れば、ちゃんと返してくれますよ」

 苦笑いをしながらあっけらかんと言う私を見て、羽瀬川先生はテーブルに肘をついて軽く頭を抱えた。

「私、彼を逃したくないんです。運命の人だから」

 私は桜小路先生の占いを信じている。
 だからこそ、奇跡みたいに条件が揃っている彼との縁を、簡単に切りたくはないのだ。
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