堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 大会議室に集められた社員はそれぞれ決められた席へ座り、事前に配られた資料を眺めていた。
 私と叶実も椅子に腰を下ろし、ペンとノートを出して準備を始める。
 どことなく大学での授業風景を思い出して懐かしくなった。

「みなさん、お疲れ様です」

 左手にマイクを握った羽瀬川先生が壇上で話し始める。

「では、二時になりましたので始めさせていただきます。コンプライアンス研修の講師を務めます、法務部の羽瀬川です」

 足が長くてスタイルがいいから、ただ立っているだけなのにカッコいい。
 低さの中に時折甘さが混じったような声も素敵で、脳が蕩けそうになる。

「コンプライアンスは時代とともに変化しており、社員全員が意識の向上に努めなければなりません。企業としての信頼を高める上でも重要です。では実際にどのような事例があるのか――――」

 羽瀬川先生がノートパソコンを操作して私たちの正面にある大きなモニターに資料を表示させた。
 顔も頭もいい、人前で講義するのも上手だなんて、天は二物どころか何物与えたのかと思ってしまう。

 一時間後に研修が終わり、それぞれが自分の部署へ戻っていった。
 叶実が意味深な笑みをたたえつつ「先に行くね」と私の肩をポンと叩いて去っていく。
 私はフーッと息を吐き、ファイルとノートを胸に抱えるようにしながら羽瀬川先生がいる壇上へ近づいた。

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