堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「あの!」

 声を掛けたことで、手元の書類を整理していた羽瀬川先生と視線がぶつかり、ドキンとひとつ心臓が跳ねる。

「……君か。お疲れ様」
「お疲れ様です。先日は本当にありがとうございました」

 腰を深く折って頭を下げたものの、先生は不機嫌でも笑うでもなく表情を変えなかった。

「あれからなにか進展が?」
「それが……彼から連絡が来なくなったんです」
「そう。だからといって、こちらから連絡を取ったりしていないよな?」

 その問いかけには目を伏せながら静かにうなずいた。

「何度も『おはよう』や『おやすみ』ってメッセージしそうになったんですけど耐えました」

 この一週間、アプリを開いて文章を打ち込んでは消してを繰り返していた。
 送信ボタンを押そうとするたびに、なぜか羽瀬川先生の顔が浮かんできて、思いとどまることができたのだ。

「あの男のことはもう忘れたほうがいい」
「でも……」
「今はつらくても時間と共に楽になるから」

 必ずそうしろと念押しするように羽瀬川先生が私の顔を覗き込んでそう告げた。
 だけど、納得がいかない私は返事をせずに下唇をキュッと噛む。

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