堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「先生はご経験があるんですか?」
「……え?」
「好きな女性をあきらめた、失恋の経験です」

 情けない顔をしたまま今度は反対に私から問いかけてみる。
 すると先生は一瞬驚いた顔をしたあと、クスリと笑った。

「失恋の経験はないな。だが世間一般ではそんなふうに言うだろう。“時間が解決してくれる”と」

 今まで一度も失恋をしたことがないなんて驚きだが、目の前にいるのはハイスペイケメン弁護士だ。聞いた私がバカだった。
 逆に女性を振った経験はたくさんありそう。

 そんな会話を交わす中、ポケットにしまっていたスマホが小さく震えて着信を告げた。
 画面を見た瞬間にメッセージの受信だとわかり、無意識に指先が震える。
 送ってきた相手は、孝乃原さんだった。

「俺、そろそろ行かなきゃ」

 まとめた書類とノートパソコンを抱えて、羽瀬川先生が私の横を通り過ぎていく。

「メッセージが……来ちゃいました」

 背中に向かってつぶやいた言葉に反応した彼が歩みを止め、踵を返してこちらに戻ってきた。

「あの男から? なんだって?」
「今夜、会えないか、と」

 眉ひとつ動かさずにそれを聞いた先生は、私が言い終わった途端に小さくうなずいた。
 普段からほとんど表情を変えない人だから、関心があるのかないのか読み取れない。

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