堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「会わなくていい」
「でも……無視をし続けるのも無理があります。そのうち会社の前で待ち伏せされる、なんてことがあったら……」
「待て。向こうは君がここの社員だと知ってるのか? こちらはなにも知らされていないのに?」

 孝乃原さんと知り合ったころ、なにげない会話の中で、どこに勤めているのかと聞かれたから深く考えずに答えていた。
 隠す必要なんてないし、世間話の一環として。
 だけど羽瀬川先生の言うとおりだ。こちらのことはありのまま伝わっているのに、私は彼のパーソナルについてなにも知らない。
 フェアじゃない、と今さら気づいてしまった。あれこれもっとくわしく聞いておけばよかったのだ。嫌われるかも、などと気にせずに。

「彼から事情を聞けていないのは私が甘かったからですよね。なので、今夜会って話してきます。疑念を抱いたままなのは嫌なので」
「危険すぎる」
「前回と同じカフェを指定されましたし、取って食われはしませんよ。それに、話さなきゃわかりあえないじゃないですか」

 ふと顔をあげた瞬間、羽瀬川先生と視線がぶつかった。
 納得がいかなくて異を唱えたいのだろう。力強い瞳で射貫かれ続けると石にでもされそうだ。

「俺も行こう」
「え?!」

 想定外の言葉が聞こえてきたせいで、私は目を丸くしたまま固まった。
 どうして先生が同席する必要があるのか。一瞬でも首を突っ込んだ責任を感じて?
 というより、先生はただ私をかわいそうだと憐れんでいるだけのような気がする。

「……なんとかなりそうだ」

 先生は自分のスマホを確認したあと、なにかメッセージを打ち込んで送信している。
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