堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 実は、羽瀬川先生はあとから同席したのではなく、隣のテーブルで他人のふりをしながら待機してもらっていたのだ。
 前回と違うのは、孝乃原さんの発言を聞き逃さないために彼と背中合わせで座っていたこと。
 最初から同席したら、真相を追及する間もなくすぐさま彼は逃げ帰るだろうと予想した先生は、先に私とふたりで話す機会を与えてくれた。
 適当なところで合流する、というのが先生が立てた作戦だった。
 おかげで孝乃原さんがどれだけ狡猾なのか知ることができたのだから、羽瀬川先生には感謝しなければいけない。

「あなた、初めから返す気などないんでしょう」
「決めつけるな」
「先ほど将来がどうとか結婚の話をされていましたよね。はっきり聞いていたのでシラを切っても無駄です」

 開き直った孝乃原さんが、顔をしかめつつ羽瀬川先生を睨んだ。
 こんな顔をした彼を目にしたのは初めてで、私はそばで見守っているだけなのに背筋が凍る。

「結婚するつもりがないのに、装って金品を奪おうとするのは結婚詐欺にあたりますよ? 恋愛関係も同じく。相手の恋心を利用して騙す行為は恋愛詐欺です」
「いや、それは……将来結婚するときが来たら、っていう漠然とした話をしただけで、相手が彼女だとは言ってない!」

 言い訳のように並べられた言葉がグサリと胸に突き刺さった。
 あれはただ一般論や理想を語っていたまでで、私との結婚を視野に入れていたわけではないのだと、ここまではっきり言われたらさすがにショックだ。
 私との未来を考えてくれている、そう思うとうれしかったのに。

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