堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「恋心も利用してはいないと? 前回、一時間以上遅れてやってきたのはわざとですよね?」
「なっ……」
「忠犬のように健気に待っていたら脈アリ、怒って帰るようなら脈ナシ。もし前者なら金銭を差し出すと踏んだのでは?」

 あの日、私が待ちぼうけを喰らっていたことを、羽瀬川先生がなぜ知っているのだろう。
 答えはひとつしかない。ずっと見られていたのだ。背中合わせの位置に居ながら。

「律儀に待っていた彼女を、あなたはターゲットにしようとした。刑法二四六条、詐欺罪が適用されれば十年以下の懲役です」
「ふざけるな。俺はこの女からまだ一円たりともカネを借りてないんだから、詐欺にはあたらないだろ!」

 孝乃原さんが怒りを爆発させるように、拳でテーブルをガンッと叩いた。
 感情を出して威嚇する彼とは対照的に、羽瀬川先生は冷静で眉ひとつ動かさない。

「そのとおりです。“この女”なんて呼び方をした時点で、彼女に対して愛情がないこともよくわかりました」
「俺が自爆するように仕向けたのか?」
「まさか。とりあえず詐欺は未遂でよかったです。どうぞ借金はよそでやってください。きちんとした金融機関をお勧めします」

 羽瀬川先生が淡々と言葉を紡いでいく姿は、まるで事前に決まったセリフを口にしているかのようだ。
 その様子が気に入らないとばかりに、孝乃原さんは立ち上がってこれでもかと睨みつける。

「俺、カネを貸せない女とは付き合えないわ。いきなり弁護士を連れてくる女はなおさら」

 彼は視線を私のほうへ向けて言い、不機嫌そうに立ち去っていった。
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