堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「……泣くほどあの男が好きだったのか?」

 私の顔をチラリと見た羽瀬川先生が静かに問いかけた。
 そこで初めて、自分の両目から涙がこぼれていることに気づいて右手で頬を拭う。

「それは……少し違います。私も自分勝手だったので」
「君が? そんな印象はないけどな」
「六歳年上のしし座でAB型。彼がその条件にあてはまっていると思ったから、逃したくなかったんです。好きかどうかは二の次でした」
「……は?」

 こちらに顔だけを向けた先生と目が合ったが、心底わからないという表情をしていた。
 だけど、先ほど言ったことは本心だ。孝乃原さんの本当の生年月日を先に知っていたら、付き合ってみる気にはならなかったと思う。
 彼は私に愛情はなかったようだけれど、よく考えたら私も似たようなものだ。
 好きかどうかではなく、彼を運命の人だとハナから決めてかかったのだから。

「なんなんだ、その条件とやらは」
「占い師の先生からいただいた助言です。そういう相手と結婚したら幸せになれると言われて」

 幸せな未来を願ったからこそ条件にこだわっていた。もちろん、こんな結果を望んだわけじゃなかった。
 きっと、条件ばかりを気にしていたから見る目が曇っていたのだと思う。
 心の中で反省していると、しだいに喉が詰まり、声が出てこなくなった。
 それと同時に涙腺が一気に崩壊して、ポロポロと大粒の涙が瞳からあふれて頬を伝う。
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