堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「ん」

 隣に座る羽瀬川先生が、ていねいに折りたたまれた紺色のハンカチを差し出してくれた。
 私は迷った末にそれをありがたく受け取り、あごからポタポタと落ちる涙を拭う。
 ハンカチは後日きちんと洗濯をして返そう。
 ガタンと音がしたので隣を見ると、羽瀬川先生がおもむろに椅子から立つところだった。

「すみません、キーマカレーをふたつ」

 通りかかった店のスタッフにカレーを注文した先生は、そのまま私の向かい側の席へ移動した。

「羽瀬川先生?」
「カレー、嫌いだったか?」
「いいえ」
「じゃあ食べて帰ろう。この前食べ損ねてただろ?」

 先生は自己嫌悪で落ち込んでいる私を慰めようとしてくれているのだ。それをひしひしと感じた。
 しかし、カレーのことまで気づかれていたのは驚きしかない。鋭い先生にはすべてお見通しみたい。

 運ばれてきたカレーのスパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。
 てっぺんに乗っている玉子をスプーンでつぶしてライスと共に頬張ると、カレー独特の辛みと旨みが口いっぱいに広がった。

「人気なだけあって、おいしいですね」

 胸を弾ませながら感想を伝える私を見て、羽瀬川先生が咀嚼をしながら小さく笑った。

「口に合ったならよかった」
「ありがとうございます。大満足です」

 先ほどまで泣いていたのがウソみたいだ。
 ショックはまだ残っているけれど、回復が早いのは全部羽瀬川先生のおかげ。

 本人は当然のように振る舞っているけれど、先生は本当に温かくてやさしい人だ。
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