堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
§3.思いがけない頼みごと
◇◇◇

 翌日、包み隠さず叶実に報告をしたら、すぐさま孝乃原さんの連絡先をブロックするように言われた。
 そんなに心配しなくても、あの様子なら向こうから逆にブロックされている気もするけれど、叶実の助言どおりに実行した。
 完全に縁が切れたというのに、なぜかさみしさはない。白黒つけられたからか、むしろ気持ちはすっきりしている。あとはなにもなかったみたいに忘れるだけだ。
 
 そして、それから三週間が経過した。
 羽瀬川先生から借りたハンカチを返そうと社内で接触を試みたものの、チャンスがなくて未だに返せないままになっている。
 法務部まで足を運んでもいいのだけれど、ほかの同僚に見られたらあらぬ噂を立てられかねない。そうなると羽瀬川先生に迷惑をかけてしまう。
 ハンカチのためだけにメッセージで連絡を取り合って会うのも、先生を煩わせるだろう。
 社内をひとりで歩いているところを捕まえるのがベストだ。
 それもなかなかむずかしいなと思っていたけれど、この日、絶好の機会が巡ってきた。

「羽瀬川先生!」

 仕事を終えた私はエレベーターで一階まで降り、入退館ゲートを抜けたところで、ビルを出ようとする羽瀬川先生の背中を見つけたのだ。
 しかも誰かと一緒ではなくひとり。先生もほかの社員と同じで今から自宅に帰るのだろう。
 私が望む最高のシチュエーションだったため、迷いなく声を掛けた。

「……お疲れ様」
「お疲れ様です!」

 振り向きざまに私の姿を確認した先生と目が合い、あいさつを交わした。
 今日もどの角度から見ても間違いなくカッコいい。
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