堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「それならよかった。向こうに鏡があるからそこで着替える?」

 誘導された場所へ行ってみると、そこはシンクがふたつもある豪華なパウダールームだった。バスタブやシャワールームは奥にあり、独立した造りになっている。
 着替えるには十分な広さだ。私は着てきたワンピースを脱いで、渡されたドレスをさっと身に纏う。
 壁に備えつけられた大きな鏡には、眉尻を下げた情けない顔の自分が映っていた。
 こんなに不安そうな表情をしていたら、羽瀬川先生に気を使わせてしまう。
 鏡に向かって笑顔を作り、心の中で気合いを入れた。
 私はもう、まな板の鯉だ。開き直るわけではないけれど、先生がそばにいてくれるのだから心配しなくても大丈夫。

「着てみました。……どうでしょうか?」

 リビングルームに戻り、足を組んでソファーに座っている彼の元へ歩み寄った。
 がんばって笑みをたたえているつもりだが、苦笑いになっているかもしれない。

「うん。綺麗だ」
「え?」
「えっと、つまり……似合ってる」

 今、“綺麗”という言葉が聞こえた気がした。
 自分の耳がおかしくなったのかと思ったけれど、一瞬彼がうろたえたように見えたから、どうやら聞き間違えてはいないのだろう。
 頭でそう理解した途端、一気に顔に熱が集まってきた。さらに似合っているとも言われて、うれしさと恥ずかしさでどうにかなりそう。


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