堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
§4.堅物弁護士の中身
◇◇◇

 俺はとある資産家の長男として生まれた。実家は富豪が集まるエリアの一等地にある。
 ご近所付き合いをしていた国枝家が所有する家や土地は広大で、ひとり息子の勇気とは同い年ということもあり、幼いころからなにをするのも一緒だった。
 通っていた私立の学校も高校まで同じ。互いに切磋琢磨して勉学に勤しんだ。
 勇気は国枝紡績の跡継ぎとして国立大学で経営学を学び、俺は法曹家になるために法学部を卒業したあと、ロースクールへ通って司法試験に一発合格した。

 弁護士として働いていた法律事務所では民事の事案を担当することが多く、とてもやりがいを感じていたのだが……
 二年前、勇気に誘われる形で、俺はインハウスローヤーとして国枝紡績の社員になった。
 旧知の仲である勇気本人から、法務部に来て力を貸してほしいと真剣な顔で頼まれたら断れなかった。
 普段は明朗快活なやつだが、会社の将来については真面目に考えているのを俺は知っているから。

 出勤すると自分のデスクにあるパソコンの電源を入れ、メールソフトを立ち上げる。それが俺のルーティーン。
 営業部からの社内メールはたいてい契約書のチェック依頼だ。
 我が社に不利益をもたらすような項目が入っていないか、法令を遵守しているか、押印の場所など不備はないか。

【副社長室へ来てくれ】

 メールに目を通している最中に勇気からメッセージが届いた。
 急ぎのときは必ず“至急”という文言が入るが、今回は書かれていないので、キリのいいところまで自分の仕事を終わらせてから向かう。

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