堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 ノックをして副社長室の扉を開けると、広々とした部屋の正面にあるデスクに勇気はいた。豪華な背もたれのついた椅子にいつもどおり悠然と座っている。

「呼びつけて悪いな」
「いや、大丈夫だ」

 こうして呼ばれるときは、ほかの社員に聞かれたくないなにかがあるときだ。だいたいの察しはついている。

「叔母のことなんだけど……」

 やはりそうかと、俺はうなずきながら持参したタブレットを起動させる。
 勇気に誘われてこの会社に入社するとき、実はひとつだけこちらから条件を出した。
 利益相反がない限り、弁護士としての副業を認めてほしい、と。
 勇気はすんなりと了承してくれたので、俺は会社以外でも身近な人の相談に乗ったりしている。
 しかし、国枝家のゴタゴタにも関わることになろうとは思いもしなかった。

「叔母さん、なんだって?」
「あの人には一円たりとも渡さない。ふざけるな、って息巻いてた」

 勇気の母方の叔母さんが、長年連れ添った夫と離婚する方向で気持ちを固めていると、少し前に相談されたのだ。
 直接会って話を聞いてみたら、家庭内暴力や散財、不貞行為があったわけではないとのこと。
 というより、相手側から離婚を切り出されたらしい。叔母さんからずっとモラハラを受けていたと夫は主張しているのだとか。

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