堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「そうは言っても結婚期間に得た財産は夫婦ふたりのものだ。相手に慰謝料を払ってもらうしか……」

 国枝家は誰もが知る資産家だが、勇気の母親の実家も名家で十分に裕福だ。
 会ってみると叔母さんは気が強くてプライドも高そうだった。彼女にとってみれば身に覚えのないモラハラが原因で離婚になるなんて許せないのだろう。
 子どもはふたりいるが、どちらももう成人している。問題は財産分与に関してだ。

「明日の土曜、亜蘭に時間を作ってもらえないか、って」
「……わかった。とにかく叔母さんの要望をじっくり聞いてからだな」
「俺は一緒に行けないんだ。悪い」

 勇気が顔の前で両手を合わせて、ごめんと謝るジェスチャーをした。
 ほかに用事があるなら仕方ない。たとえそれがデートだとしても。俺は頼まれた仕事をするだけだ。

「父親が力を入れてるボランティア団体に顔を出さなきゃならなくて」

 デートじゃなかったのか。案外まともな理由が返ってきたことを意外に思いつつ、俺は静かにうなずいた。

「そうか。がんばれ」
「誰か代わりに行ってほしいよ」
「副社長であるお前が行くから意味があるんだろ?」
「……そうだけど」

 頭を抱える勇気に対し、社員らしく一礼して副社長室をあとにする。
 こうして杓子定規に正論しか口にしないから、俺は“堅物弁護士”などと呼ばれるのだろうな。
 法務部の仕事はほぼ前倒しで終わっているから、今日は早めに退社して離婚協議のほうの対策を考えよう。

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