堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 会社を出ると帰り道の途中にあるカフェへ勝手に足が向く。
 内観は洒落ているのに店内の雰囲気は落ち着いていて、かなり俺好みだ。
 それにここの人気のキーマカレーは絶品だから定期的に食べたくなる。

 スタッフから案内された席へ腰を下ろし、お目当てのキーマカレーを注文して、待っているあいだにタブレットを開く。
 そのとき偶然、店の入口から女性がひとり入ってくるのが見えた。
 彼女はうちの社員のはず。以前、株主総会に使う文書をチェックしてほしいと、わざわざ法務部までやってきたので覚えている。
 総務部の、名前はたしか……茅田静珂だ。

 彼女はスタッフによって俺の真後ろの席に案内されたが、そわそわとしていてこちらには気づいていない。
 誰かと待ち合わせなのだろう。そう思い、俺も気づいていないふりをしてやりすごすことにした。

 しばらくするとキーマカレーが運ばれてきたので、時折タブレットを操作しながらゆっくりと食事を始める。
 食べ終わった皿を下げてもらい、コーヒーを注文したところで、背後にいる彼女のことが気になった。
 上半身だけ振り返って、そっと様子をうかがってみる。パーティションなどはないから丸見えだ。
 彼女はまだひとりだった。背中合わせなのでどんな顔をしているかわからないけれど、おそらく待ちぼうけを喰らっているのだと思う。


 
< 64 / 101 >

この作品をシェア

pagetop