堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「二百万円は大金だよ。私にはそんな貯金はないから無理かな」

 そうだ、それでいい。きっぱりと断って縁を切ってしまえ。
 心の中でそう願っていたが、彼女のやさしさにつけこんだ男がしつこく食い下がっている。
 男は彼女を金づるにするため、情に訴えようと必死だ。

「俺もこんなこと頼みたくないんだ。でも、結婚したくなったときに無一文なのは嫌だから、無理してでも今がんばっておきたいんだよ」

 君との将来を見据えているんだ、というアピール。結婚詐欺師がよく使う手口じゃないか。
 こんなゲスな男の言葉に騙されるな。突っぱねろ、今すぐ席を立てと願っていたが、彼女は黙り込んでなにもアクションを起こさなかった。

「あんな男にカネを貢ぐつもりか?」

 男が去っていったあと、俺は考えるよりも先に彼女に話しかけていた。
 親しい間柄とは言えない俺から突然首を突っ込まれておろおろしていたが、そんなことはどうでもいい。
 俺は彼女が間違った選択をしないように導きたい。それしか考えていなかった。
 男の情報を聞き出そうとして、いろいろと尋ねてみたけれど、ほとんどなにも知らないに等しい状態だ。
 自分の素性を隠してカネを出させようとするなんて、あの男は詐欺師以外の何者でもない。

「二百万は大金だ。そんな薄い情報しか知らない男に貸すなよ?」
「それほどの貯金はありません。でも……五十万円くらいなら……」
「は? ダメだ。絶対に貸すな」

 人は恋をすると必要以上に相手がよく見えて、逆に悪いところにはあまり目を向けなくなる。
 これがいわゆる、恋愛における確証バイアスの弊害だ。すでに彼女もこの状態なのかもしれない。
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