堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「仕事が軌道に乗れば、ちゃんと返してくれますよ」

 そう言って苦笑いをする彼女をみて、俺は軽く頭を抱えた。
 こうなると俺がどんなに忠告をしても響かない可能性が高い。理由はあの男に惚れているからだ。

「放っておけばいいんだよな。だって俺には関係ないんだから。だが、好きにしろとはどうしても言えない」

 気がついたら本心をぶちまけていた。
 俺は昔から間違ったことが嫌いで、人を騙したり貶めるような行為が許せない。

「君が泣くとわかってるから、絶対に見過ごせない」

 頼むから伝わってくれ、と願いを込めてじっと見つめる。
 すると彼女は自分ひとりで決めないで友人に相談すると言った。少しは考える方向に向いてくれたらしい。
 頭の固いタイプじゃなくてよかった。というよりも、逆に素直過ぎて心配になる。
 癒し系の笑みをたたえる彼女は、やさしくて心の綺麗な女性なのだと、俺はこのときすでに気づいていた。

 あっという間に一週間が経ち、それからどうなったのか、俺には知るすべがなかった。
 総務部に行けば彼女に会うことはできる。だが、プライベートの事柄でわざわざ出向くのもおかしい。
 俺は結局なにもしてやれないのかとぼんやりと考えていたら、タイミングよくコンプライアンス研修があり、終わると同時に彼女のほうから話しかけてきた。
 男からの連絡が途絶えたなら好都合だ。もう忘れろと助言したのだが、そのときちょうどメッセージが送られてきてしまう。
 彼女をうまく説得して、男は今度こそ金銭を奪うつもりだ。
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