堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「彼から事情を聞けていないのは私が甘かったからですよね。なので、今夜会って話してきます。疑念を抱いたままなのは嫌なので」

 どうやらこのままあいまいに終わらせるのは無理みたいだ。一応、付き合うと返事をした仲だから。
 男がウソをついて自分を騙そうとしたのか、最初から愛情は微塵もなかったのか、そのあたりをはっきりさせなければ納得できないのだろう。
 この日、勇気から同席してほしいと言われている会食の予定が入っていたけれど、俺はスマホで行けなくなったと連絡を入れた。
 彼女が口車に乗せられて貯金を渡してしまったらと考えたら心配でたまらなくて、そばについていてやりたかったのだ。

 とはいえ、弁護士の俺が最初から同席したら、男は間違いなく言い訳をして即刻逃げ帰る。
 そうなると本心は聞きだせないままになり、モヤモヤした気持ちがずっと残ってしまう。
 そこで、顔が知られていない俺は後ろのテーブル席に待機し、最初はふたりで話すよう提案した。
 彼女が質問を重ねても、男は必ず金銭の話を持ち出すはずだ。

「百五十万もきつい? だったら百万でもいいけど」

 ほらみろ。俺の読みは当たった。身勝手な要求なのに、さも当然と言わんばかりの口調に腹が立つ。

「結局さぁ、静珂ちゃんは俺にカネを貸す気あるの? ないの?」

 もういいだろう。十分だ。これ以上彼女が傷つく姿を見るのはつらい。
 そっと立ち上がった俺は抑揚のない口調で「失礼します」と言いながらふたりに割って入った。
 自然と目に入ったのは、彼女が膝の上で作った両手の拳。力いっぱい握られたそれは、小さく震えている。

 ――――俺の中で庇護欲が湧き出した瞬間だった。
< 68 / 101 >

この作品をシェア

pagetop