堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
 俺が弁護士だとわかった途端、男はわかりやすく表情を変えた。
 面倒くさいことになったと顔が物語っている。それに、憮然とした態度は開き直っているとも取れる。そんなヤツを俺は絶対に許さない。
 日本は法治国家だ。俺は法を振りかざして、とことん追い詰める。すると男は降参したのか、捨て台詞を吐いて去っていった。

「彼を運命の人だと思っていたんです。だから信じたかった。でも全然違いました。うまく話を合わされて、すっかり騙された私はバカですよね」

 彼女の声がくぐもっていたので、そっと隣をうかがい見ると、両目から綺麗な涙がこぼれ落ちていた。少なからずショックを受けたのだから当然だ。

「……泣くほどあの男が好きだったのか?」

 結果的にこうなると、俺は最初からわかっていた。彼女も薄々気づいていただろう。
 泣かせたくはなかったけれど、今だけは仕方ない。これは前に進むための涙だ。

「六歳年上のしし座でAB型。彼がその条件にあてはまっていると思ったから、逃したくなかったんです。好きかどうかは二の次でした」
「……は?」

 くわしく聞いてみると、占い師から助言を受けたせいで相手の条件にこだわっていたのだそうだ。
 彼女はなにを置いてもまず“感情”を優先するタイプだと思っていた。だからあんなにうさんくさい男のことも見放さなかったのだろう、と。
 自分の気持ちよりも占い師の言葉のほうを重視するとは、正直意外だった。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、隣で彼女が大粒の涙を流していて、あごから雫がポタポタと落ちてしまっている。
 あの男を選ぼうとした経緯はさておき、気持ちを踏みにじられる形で終わったのだから傷ついたのだ。
 俺はスーツの内ポケットからハンカチを取り出して、そっと彼女に渡した。
 早く元気になれ、と願いを込めながら。

< 69 / 101 >

この作品をシェア

pagetop