堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「……たいした話はしてないです。私を気遣ってくださってました。副社長って、すごくやさしい方なんですね」

 やわらかな笑みをたたえる彼女を目にし、なぜだか複雑な感情が湧いてくる。
 親友が褒められたのだからうれしいはずなのに、心の中に(もや)がかかって純粋によろこべない自分がいる。

「実は社内でも副社長派の女性たちがキャーキャー言ってるんです。イケメンだから人気があるんですよ」
「勇気は昔からモテるんだよな」

 俺は返事をしつつ立ち上がり、窓際の分厚いカーテンを開けた。
 東京翠雲グランドホテルの三十九階から見下ろした夜の街は、キラキラと明るく輝いている。
 振り返って目が合った彼女においでと手招きをして呼び寄せた。

「わぁ! 綺麗な夜景!」

 ビルの灯りや高速道路を通る車のライトがきらめいていて幻想的だ。
 宝石箱をひっくり返したみたい、という一般的な表現がしっくりくる。

「こんな夜景、なかなか見られないですよね。ありがとうございます」

 窓に両手をついて景色に目を奪われている彼女がかわいくて、思わず手を伸ばしそうになる。
 ただ、触れたい。酔っているわけでもないのに、このロマンチックなムードのせいで理性を保つのに必死だ。

「あの……先生?」

 両サイドから囲うようにして窓に手をつき、華奢な彼女を背後から閉じ込めた。
 顔は見えないけれど、距離の近さに驚いたのか、彼女が肩をビクンと震わせる。
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