堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
「副社長派、かぁ……。君もそう?」
「いえ、違います。私は自他共に認める羽瀬川派で……あっ、いや、今のはなしで!」
「なしって、取り消すってこと?」

 照れて真っ赤になっている彼女の耳元に、わざと唇を寄せて小さな声で尋ねる俺はひねくれている。
 意地悪な質問をされて困ったのか、窓と俺に挟まれていた彼女がくるりと身をよじってこちらを向いた。

「ウソはついていないので、取り消しません」
「……そう」
「正直に言います。副社長も素敵ですけど、羽瀬川先生のほうがもっともっと素敵です」

 今の言葉を聞いた途端、心の中にあった靄が一瞬で消えた。
 なんだ、そういうことか。勇気よりも俺のほうがいいと、彼女の口からはっきり聞きたかったんだ。
 要するに、俺は親友に嫉妬していただけ。

 彼女の潤んだ瞳に色香が宿っていて、その頬に触れずにはいられなくなる。
 そのまま顔を近づけて、ぷるりとした艶やかな唇にキスを落とした。

「無防備だな」

 唇を離して至近距離でつぶやくと、彼女は閉じていた目を開けながら「先生の前だからですよ」と返事をした。
 ギュッと掴まれたみたいに心臓が痛い。
 それと同時に愛しさが湧きあがってきて、たまらずにもう一度、今度は深く唇を奪った。
 息が上がり、酸素を求めるように彼女の唇が開く。恍惚とした表情が俺をさらに昂らせた。

 舌を絡めると、彼女の身体からどんどん力が抜けていく。
 とうとう立っていられなくなって床へ座り込む寸前、俺は彼女を掬うようにして横抱きにした。
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