堅物弁護士が占い好きな私に恋を教えてくれました
◇◇◇

 定時に仕事を終えた私は急いで帰り支度をして会社を出た。
 待ち合わせの時間は十八時だから、そんなに慌てなくてもよかったのだけれど、早くカフェに着いて孝乃原さんを待っていたかった。
 私はこうして相手のことを考えながら待つ時間も好きだ。

 ここのカフェはキーマカレーがおいしいとネットの口コミで評判になっている。
 夕飯時だからか店内にカレーの香りが立ち込めていて、急激にお腹が減ってきた。
 十八時になり、そわそわしながらアイスコーヒーを口に含む。
 そろそろ彼が来るはずだと出入り口のほうを気にしていると、テーブルに置いていたスマホが短い着信を告げた。孝乃原さんからのメッセージだ。

【ごめん、少し遅れる。待っててね】

 きちんと連絡してくれる彼は律儀だなと思う。
 大人として当然と言えば当然だけれど、私が心配しないように配慮してくれたのだろう。
 スマホでSNSをチェックしたり、ゲームをしたりしながら時間をつぶした。
 今か今かと首を長くしていたけれど、待てど暮らせど彼はやって来ない。

「静珂ちゃん、遅れてごめんね」

 ダークグリーンの洒落たシャツに身を包んだ孝乃原さんが小走りで私のもとまで来て、両手を顔の前で合わせて謝った。
 それもそうだ。ようやく姿を現した今は、すでに約束の時間から一時間以上過ぎているのだから。
 私はとにかく彼が無事だったことに安堵して、ふるふると首を横に振った。

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