夏が消えてゆく
「 なにしてたん? 」
「 なにが? 」
「 さっき 」
黒板の前でなんかチョーク持ってたじゃん。なんて言いながら外履きに履き替えて、中履きを下足ロッカーにもどした。
あーなんて、なんでもないように言葉を紡いだ夏稀は、本当に、なんでもないみたいに笑って見せた
「 ふゆが日直の名前書きかえてなかったから書いてた 」
「 ほーん 」
ほーんってなんだよ、と笑った夏稀は、中履きをロッカーに戻さず自分のリュックにしまった。
今日金曜日じゃないよ…?
朝のもやもやが、ちょっとだけ戻ってきた。
忘れてたのに。
「 中履き、持って帰るの? 」
「 持って帰る、めっちゃ汚れててさ 」
あくまでも本当になんでもないように話すから、わたしもそっか、なんて
そのまま夏稀は自然な流れで私の手を取った。
「 なーふゆ。 」
突然だった。
一瞬だった。
人はみんな唇に残る感触とか覚えてるって言うけど、何も頭に残らなかった。
「 …… え? 」
「 もし、俺が 」
風が吹いて、木々が揺れて、川が流れて、日が沈んでいく。
「 別れよって言ったらどうする? 」
一瞬、夏稀は苦しそうに顔を歪めた。
え、私今振られてる?
キスされた次の瞬間に?
混乱する頭で夏稀をみると、特にふざけた感じでもなく余計に頭の中がこんがらがる。
「 ね、どうする 」
もう一度問われ、それでもなんだかこの空気感に耐えられなくなった私は
「 ボロボロになって泣き崩れる 」
「 はっ? 」
「 なーんて言うとでも思ったか、ばーか 」
にぃっといたずら気に笑ってみせて夏稀の反応をこっそり伺うことに逃げた。
夏稀は
夏稀は、心底安心したように、表情を緩めた。