夏が消えてゆく
自分の気持ちに気が付かないふりをできるほど器用な人間ではなかった。
高校生になって、夏稀は私をふゆと呼ぶようになった。
私は照れ隠しで、なんでもないように答えていた。
相変わらず愁人は愁人で、呼び方ひとつ変わったくらいで何も変わらないと思っていた夏稀との距離は、なんとなく少しだけ近づいたように思っていた。
ここ最近、夏稀は忙しくしているようだった。
なにかあったの?なんてきける関係であったとしてと、一緒に乗り越えようなんていえる関係ではなくて。
「 あーあこのへんボロ民家ばーっかり 」
「 こらそういうこと言わない 」
あーあ。今日はやっぱりどこかおかしいみたいだ。
「 もっと明確な答えが欲しかったんですよ、女としては 」
なんて、どこかに消えてしまいそうな夏稀に対してものすごい恐怖心を覚えて、付き合ってもないのに繋がれた指先をぎゅっと強くにぎった。
怖い、怖い、こわい。
「 ふゆ 」
「 うん? 」
「 『Dear』って、親愛なる、的な意味あるらしいよ 」
唐突な Dear のおはなし。
こっちは恐怖心に耐えるのに精一杯だってのに、なんでいま?
というか親愛なる、っていう意味があるのなんて、
「 知ってる、けど…… 」
だって、
「 私が夏希に教えたんだよ、忘れちゃったの? 」
「 ははっ、覚えてたんだ? 」
「 当たり前じゃん、私の記憶力なめんなよー? 」
そういってみせれば「 社会の小テスト何点だっけなぁ」なんてにやにやしてくる。
危ない人みたいになってるぞ、夏稀さんよ。
教えてやらないけど。
「 まっ、そういうことだから。Dear の意味、ちゃんと覚えておいて。 」
「 夏稀こそ忘れたらぶっ飛ばすよ? 」
「 おー、こわ 」