夏が消えてゆく
「 じゃーな 」
夏希にそう言われて初めて、もう自分の家の前まで来ていたことに気がついた。
「 相変わらずでけぇな、お前の家。 」
「 普通だよ、ふつー。 」
「 ふつーじゃねーよ、ばーか 」
「 なっ! 」
ばかって言った方がばかだもん!
そんな小学生みたいな反論をしようと顔を上げた時、
─── フワッ
空気が動いて、頭の上に夏稀の手が乗った。
そしてひとこと
「 離したくねぇなあ…… 」
寒空に溶けて消えた、離したくない。
「 え? 」
訳が分からなくて尋ね返して、夏稀を見上げた。
ちっちゃかったのにでかくなったなぁ、いくつあんの?180cmはありそう。てか180cmも身長あってこの村で得することってあるの?
なんて場違いなこと考えて。
風を絡めて舞った髪の毛のせいで表情は見えなかったけど、それでも
「 離れないよ、私も、愁人も。 」
生まれた時からずっと一緒なんだから、これから先もずっと一緒にいるよ。だから大丈夫、なんて未だ風に揺れるサラサラの黒髪を撫でる。
「 ん、 」
最後に少し、寂しげに笑ってみせた。
「 ん!夏稀ばいばい! 」
「 ん、また明日、な。 」
私は、君が残したSOSと小さな嘘を、完全に、見落としていた。
それ以降私が夏希に会うことはなかった。