夏が消えてゆく
「 夏稀がいなくなった 」
「 3年前のやつ? 」
「 うん 」
あの日ドアを開けた途端に柊登はぽつり一言そうこぼして、唐突に私の前まで来ると、強く私を抱きしめた。
愁人の言葉に、愁人の腕の中の温かさに、泣いた。
わんわん泣いた。声を上げて、馬鹿みたいに泣いた。
夏稀がこの村にもういないことを、実感してしまった。
私を抱きしめる愁人も静かに涙を流していた。
しばらくして教室のドアを開けた佐藤の目も心做しか赤かった。
漫画や小説によくある『 心にぽっかり穴が空いた 』
と言う表現が正しいのかはよくわからない。
今までは嘘だと、大袈裟だと笑い飛ばせていた表現を、笑い飛ばせなくなるくらいには心に大きな穴が空いていた。
ほかのことを考えていないとうっかり涙が零れてしまうこの状況を他になんと例えられようか。
「 夏稀、なんで死んだか知ってる? 」
掃除が終わってピカピカになったお墓を見つめながらおもむろに口を開いた愁人の視線は、ゆっくりと私の目に向けられていく。
質問の意図と題意を上手く掴めなくて、ゆるゆるの首を横に振った。
愁人はハッと笑った。
私を馬鹿にするわけでもなく、あくまでも自嘲するように笑った。
「 過労だって 」
「 …… 」
「 俺さ、夏稀がいなくなること知ってたんだ 」
多分、ふゆが知るのよりずっと前から。
夏がいなくなって3年目の今日、愁人の突然の告白の意味が全くわからなかった。