夏が消えてゆく
「 夏稀、良かったの? 」
「 うん 」
ガタガタと舗装されていない道路に車を走らせる。
夜が明ける前に出たい。
そんな俺のわがままを聞いてくれた母さんには感謝をしている。
朝にでも出てうっかりふゆの顔を見たら ……
絶対、行きたくないって弱音を吐くだろ。
ふゆはたぶん、『 は?早く行けよ 』なんて笑うかもしれないけど。
ああでも、『 また明日 』は言わなきゃよかったな。明日になっても会えないことをいやでも自覚してしんどいや。
数日前、父さんが亡くなって。
生きていくために俺は街に出て働くことを選んだ。
父さんがなくなって片親になった時、古い考えの抜けない村ではこそこそ噂されることも増えていた。どこから湧いたのか、多額の借金が残っているのでは、なんて尾ひれをつけて。
しんどいはずなのに、高校に通い続けてもいいと母さんは言ってくれたけど、母さんは体が弱いせいで満足に生活費を稼ぐのは難しくて。
別に母さんを責めているわけじゃない。
でも、
「 もうちょっとだけ、あいつらとバカしたかったなぁ …… 」
木々しか見えない景色を眺めながら、思わず弱音が漏れた。
『 今日はお昼頃から山間部には雪が降り ─── …… 』
なぁ、ふゆ
今日も雪が降るんだって。
寒そうにマフラーに首をちぢこめる姿は可愛かったけど、そろそろ生足もどうかと思うよ。
末端冷え性なんだからさ