夏が消えてゆく
「 うるさいなぁ
ママみたいな事言わないでってば 」
「 誰がママだ、コラ 」
「 騒がしい… 寒い… 」
「 愁人は寒さに弱すぎだっつの 」
寒さに弱すぎる幼じみが机に突っ伏して丸くなっているところに、カイロを握らせるのは毎年この時期の恒例。
……やっぱり夏稀はわたしたちのママだと思う
「誰がママだって?」
じっとこちらを睨む夏稀の視線に、「えー?なんのこと?」なんてとぼけながら、カバンの中から筆箱を取り出して、宿題どこだっけーなんて話題を無理やり逸らした。
だって夏稀怒ると怖いんだもん、ママみたいに。
なんて思いつつ、宿題の文字を探しながら、指の脂がなくてほとんどめくれやしない教科書をペラペラめくる。
私たちの授業では、3人しかいないから毎回当たる。
町の高校には、当たらない授業とかあるんだろうか。
知らない世界の方が多いこの状況にも、2人がいればいいかな、なんて、多分そんなこと考えてばかりの私は甘いのだろう。
やっとの思いで見つけた〇で囲まれた H.W. の文字をひと睨みして、セーラー服の襟を直す振りをして教科書をたたもうと試みた。
…が、そんなことを夏稀が許すはずもなく、虚しくテキストは課題のページに戻された。
ちぇっ、1番成績がいいからって真面目かよ
そんな思いを込めて課題を睨む顔を夏希に向けて、「おーこわ 」なんて。
絶対怖いなんて思ってないこと知ってるんだから。
失礼しちゃうよ、ほんとに。