夏が消えてゆく
戻されたテキストと仕方なく、本当に仕方なく格闘していると
─── ミシッ、ミシッ、
その音が聞こえれば先生が扉を開けるまであと5秒。
小学生から聞きなれた、チャイム代わりの始業の合図。
5…
4…
3…
2……
ほらね
立て付けての悪いドアが不安定な音を立てて、
「 寒い閉めて佐藤!」
「 先生をつけろ先生を! 」
「 さむ… 」
この学校唯一の先生、佐藤のお出ましだ。
40歳半ばで、山を下った栄町に奥さんと子供を置いてただいま山の小さな村まで単身赴任中。
たった3人の生徒のためだけに。
私たちにとっては先生よりももっと近い、第2のパパみたいな存在。(佐藤にパパみたいだねって言ったら案の定怒られたけど)
いつも通り教卓の前まで来て、そから何気ない話をして朝の挨拶に入るから。
「 …… 」
いつも通り教卓の前まで来て、課題を大慌てでやってた形成を残す私を見て、寒くて丸まったまま挨拶をしない愁人を見て、また怒ったり茶化したりするんだろうなって思ってたのに
「 …… 」
ふと、小さな違和感を感じた。
何も喋ろうとしない、そんな佐藤の様子が小さな魚の骨が喉につっかえてるみたいに
微かな蟠りを残す感覚が気持ち悪さを覚えて。
「 さとー? 」
思わず、小さくそう声を漏らした私の声に佐藤はハッとしたように我に返って。
「 出欠とるぞー 」
僅かな涙を含んだ声でいつも通り笑ってみせた
え、なに、なんなの。
いつももーーっと声をはりあげてて、丸まる愁人が耳を塞ぐくらいなのに
なんで、そんな
お別れ、みたいに。