線香花火が、長く、続くように
*5* 線香花火
和輝にフラれて1か月近くが経とうとしていた。
夏休みも終盤に差し掛かった頃。
その日は、部のメンバーでバーベキューと花火をしようという話になっていた。
──あー、なんで出席で出しちゃってたのかな…。
告白する数日前に、出欠を確認されていた。
和輝が『参加』にしていたのをちらっと見かけ、
だからというわけではないけれども、
杏奈も『参加』と回答していたのだ。
1年生は買い出しを任されていたので、数名で買い出しに行った後、顧問の車に乗って会場へ向かった。
会場につくと、2年生がバーベキューのための火をおこしていた。
「みんな!買い出しありがとな。大荷物で大変だったろ?」
部長の和輝が、杏奈達の方に歩み寄ってきて、そう声をかけてくれた。
「いやいや、火おこしの方が大変じゃないっすかー?暑いっすもん!」という男子の後ろで、
杏奈はペコッと頭だけ下げ、買い出しした荷物をトランクから下ろすために、車の後ろに回った。
「重いやつ、持つよ。」
いつの間にか杏奈の近くまで来ていた和輝にそう声をかけられ、驚いた。
「ありがとうございます…。」
──いつも通りにね。いつも通りに…。
フッた、フラれた、なんて、和輝にはあまり関係ないのかもしれない。
荷物を両手に持ち「買い出しありがと」と杏奈に言って微笑んだ後、
バーベキューセットが設置されているあたりに向かって歩いていった。
部長として、気まずくないように接してくれているのだろう。
でも、和輝のその優しさが、かえって心の傷口に滲みた。
流石に1か月弱では、まだ上手く立ち直れなかったのだと、改めて実感する。
その後、バーベキューの準備を進める時も、食材を焼いて、皆で食べる時も、
できるだけ失恋の傷を深めないために、和輝と距離を取りながら過ごした。
他の部員達と談笑しながら、どこか落ち着かない気分だった。