線香花火が、長く、続くように
「こんにちは」
急に後ろから声をかけられ、杏奈は、びくうっと体を震わせた。
振り向いた先に立っていたのは、爽やかで、穏やかな空気をまとった男子。
好青年。
彼を一言で表現するとすれば、その言葉が1番しっくりくる。
雰囲気から、上級生だということは明らかだった。
「す、すみません…!私、勝手に入ってしまって…」
「いや、いいよいいよ。あまりに集中してるから、声掛けようか迷ったけど。びっくりさせてごめんね?」
にっこりと笑いかけてくれたその彼の笑顔に、ドキッとした。
それを悟られないよう「ここって、写真部の部室なんですか?」と慌てて聞いてみる。
「うん。正確には作業場所として使わせてもらってるだけで、部室は別にあるんだけどね。これだけあると部室に収まんなくてさ。一時的に間借りしてる。」
「確かに…。これだけあるとそうなりますよね。」
「そうそう。コンテストも近いから部員みんながバンバン写真撮ってて、スペースが全然足りなくてさー。」
首にかけていた一眼レフを外し、パソコンが置いてある席の椅子に腰掛けながら、彼が答えた。