初恋の始め方
私から興味を逸らすことなく会話を続ける高瀬くんに、本格的に面倒だ、と一気に警戒心のレバーがマックスまで引き上げられる。
さっきから女子の視線がちらちらと彼に集まっているのは、きっと気のせいじゃない。
そのどれからも感じるのは、熱っぽい空気の色。
そんな彼と話をしている私が、彼女たちにどう映るのか気が気ではなかった。
勘弁してほしい。
彼女たちのそれを、彼は自覚しているのだろうか。
(……あい子、)
いまだにおしゃべりを続けるあい子に、困った私は心の中で助けを求める。
それが通じたのかどうか、ちょうど終わったようでバッグに荷物を纏めて私を振り返る。
「さくら、帰ろっか?」
そんなあい子に頷いて、安心して帰ろうとした、のだが。
「ばいばい、小峰さん」
背後から聞こえた声に恐る恐る顔を向けると、机に突いた右手で頬を支えながら、かわいく左手を振る高瀬くん。
私はそれに曖昧な笑みを貼りつけた顔で、軽く会釈して教室を出たのだった。