初恋の始め方



「おはよー」



―――翌日。

朝の挨拶が飛び交う昇降口に、登校してきたばかりの私とあい子はいた。


私たちを含め、今日が登校初日の新入生はどこかそわそわと落ち着かなさげな様子で、新学期の始まりに怠そうな上級生たちの間では、なんだか迷子の子供のように不安げに映った。

実際にそれは私で、自分がそう感じるからそう映るだけなのか……。



「初日からテストとか怠いよねー」

「でも、春休みの課題からだし」

「うーん。さくら自信ある?」

「ない」

「即答?」

「即答!」

「ま、明日から授業だからそれも嫌だしね」

「全部嫌だね」


あい子とくだらないことを話すのは、構える必要もないし、言葉を選ぶ必要もなくて気が楽。

あい子との時間の中には、今まで2人で積み重ねてきた安心感がある。

私が自然体でいられるのは、あい子の前くらいだろう。


がやがやとした廊下を、喧騒の合間を縫って教室まで歩く。

それがほどよく私の存在を紛れさせてくれるから、こんな人込みもわりと嫌いじゃない。



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