花火に目がくらんでオチテいく
「ふわふわの泡で洗うと気持ちいいでしょー。髪も洗ってあげるからねー」

「いいよ。トワくんは自分の体洗って」

「ダーメ。あんずちゃん、今日は頑張ったから癒してあげたいの。何もしないで。全部僕がするからー」


癒しって何だろう?
私にとっての癒しは……。


「熱くない?」

「……うん」


ここまで世話をやいて、彼女につくしてくれる彼氏はいるのだろうか。


シャワーが終わると、しっかりドライヤーをかけて、ヘアオイルまでぬってくれる。


そして、女の私でもできない浴衣の着付けを手際よくしてくれて、髪も編み込みをしてサイドにまとめてくれた。


「かわいいー。うん、やっぱり花火大会に行かないほうがいいよ。こんなかわいいあんずちゃん、誰にも見せたくないもん」

「……かわいくないって」

「だから、あんずちゃんでもあんずちゃんのこと悪く言っちゃダメー。

何回もかわいいって言うから薄っぺらく聞こえちゃうかもだけど。本気で僕は世界で一番あんずちゃんがかわいいと思ってるんだから」


彼がそう言うんだから、そうなんだろう。
もう疑わない。トワくんの世界では、私が一番なんだ。



その後。お昼ごはんを食べ損ねていた私たちは、ママが準備してくれていたオードブルを食べた。

正しくは食べさせてもらった。


「はい、あんずちゃんの好きな海老とアボカド。あーん」


小さく口を開けると、トワくんが食べさせてくれる。そして、フキンで口を優しく拭いてくれる。


「美味しい?」

「……うん。自分で食べられるからトワくんも食べて」

「僕は後で食べるからいいよー。あんずちゃんにこうやって食べさせてあげるの夢だったんだ。だから気にしないで」


トワくんといると自分が何もできないダメ人間になりそう。だけど、深い自己嫌悪に陥っている私には反抗したり、怒りをぶつける気力がない。
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