彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません
「ひより、今日も定時で帰るよ!」
「うん、がんばろ恵理ちゃん」
今日ペアになったのは同期の森恵理子(もりえりこ)ちゃん。ふたりで電子カルテと点滴を積んだワゴンを押しながら廊下に出る。
恵理ちゃんは同じ歳で、22歳から一緒に働いておりお互いに8年目になった。
天海総合病院は給料に加え福利厚生も良く、人間関係も良いことから長く勤めているスタッフも多い。
「あ、瀬名先生だっ」
恵理ちゃんの弾んだ声に電子カルテから顔を上げると、ちょうど305号室から出てきた瀬名先生がこっちに向かって歩いて来ていた。
180cmはある長身の先生は紺のスクラブに白衣を羽織っている。それでもわかる引き締まった体形。首元から覗く鎖骨は男らしく、そして色気を放っている。地毛らしい少し癖のある暗めブラウンのショートヘアは甘いマスクにとてもよく合っている。
本当に、歩くだけでも絵になるなぁ・・・。
こっちに向かって来る先生となんだかずっと視線が絡んでいるような気がした。
あ、私たちに何か用事があるんだ。
「吉岡さん、おはよう」
「お、おはようございます」
いつのまにか先生は私の前に立っていて、必殺イケメンスマイルに少し圧倒されてしまった。
「ちょっと先生!私もいるじゃないですか」
すかさず恵理ちゃんが突っ込んだ。
「ああ、ごめん。森さんにはさっき朝礼前に挨拶したつもりだった」
「もー先生。まぁいいですけど、ひよりはもうすぐ結婚する彼氏がいるんですから、ダメですよ!」
「・・・・・・え、結婚・・・?」
急な私の個人情報開示にドキッとする。先生も急にそんな話をされても困るはずだ。