彼と別れた瞬間、チャラいドクターからの求愛が止まりません


 「ねっ、ひより。明日2年記念日だから、ホテルにお泊まりしてお祝いするんですって!絶対プロポーズですよねー?先生っ」

 「恵理ちゃん!恥ずかしいよっ」

 「いいじゃない!素敵なことなんだからっ。ねっ先生、絶対プロポーズですよね?私たちもいい歳だし」

 「・・・あぁ、どうだろうな」

 瀬名先生が少し戸惑っているように見えた。

 いつも看護師たちに何を言われてもノリで明るく返している先生なのに、どうしたんだろう。やっぱりこんな話されて困ってるんだ・・・。

 「やだ先生、そこはいつもみたいにノッテくださいよ」

 恵理ちゃんがトンっと肘で先生を小突いた。 

 「はは、ごめん。あ、〇〇さんの頭部CTのオーダー入れるからよろしく。俺、明日から学会でいないから、何かあれば今日中にお願いします」

 先生はいつものように笑ってみせると指示を出してナースステーションへと戻っていった。


 「どうしたんだろうね、先生。疲れてるのかな」

 先生の様子がいつもと違うのを恵理ちゃんも感じとっていたようだ。

 脳神経外科医の瀬名先生は、診断は的確でアメリカで学んできた経歴もあり、手術の腕も一流と、スタッフや患者家族からの信頼も厚い。


 ただ、ひとつ難点として・・・・・・チャラい。


 先生がここに来て最初の頃はそんなことも思わなかったのだけど、ちょうど2年前くらい、私が今の彼と付き合い始めた頃から、先生の色んな噂を耳にするようになったし、この目で見かけるようにもなった。

 夜、綺麗な女性と街で親密そうに歩いているところを見かけたとか、

 実際に身体の関係を持ってしまったスタッフがいるとかいないとか、

 スタッフとの距離が近くてフレンドリー過ぎるところとか。

 私には付き合っている彼がいるし、先生のことは目の保養くらいにしか思っていない。確かにチャラいけれど、患者さんのことはちゃんと診てくれるし、看護師の話も聞いてくれるから仕事はやりやすいし、とくに支障はなかった。
< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop